白い傘、オレンジ色のあめ。 (ページ11)

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「会ったこと、ありますよ。このお店で」

びっくりする言葉が出てきた。

「井口さんけっこう酔ってたから覚えてないかもですけど、あのテーブルで一緒に飲みました」

振り返り、後ろのテーブル席を指差す。

「それっていつくらい…」

「夏のおわりくらいですかね？」

そんなことあったっけ、と首を傾げる圭介さん。
ベースの新井さんもいました、とはっきり言う彼女に、まあ事実なんだろうと感じた。酔ってAzに来ることは珍しくないから、その時に彼女と会っていて、おれが覚えていなくても不思議じゃない。

じゃあサービスエリアで会ったのは彼女にとっては二度目ということか。

「初めましてでも常連さん同士気軽に飲めるから楽しいですよね、圭介さんのお店は」

「サービスエリアは…」

「サービスエリア？」

「この前刈谷のサービスエリアで会いましたよね。Aさん、飴くれて」

「…たぶん人違いかと思います」

さらにびっくりする言葉が出てきて言葉を失った。

人違いのはずはない。
今日だってお気に入りなのか、あの日と同じ薄手の茶色いニットを着ている。
肩につく髪はゆるく外に巻かれていて、その姿はサービスエリアからそのままここに来たようだった。

でもおれはわかってしまった。にっこり笑う彼女の瞳が少し揺れた気がした。
なぜ彼女は嘘をつくんだろう。

あの白い傘は、あの日の暗い気持ちと夜のよどんだ空気を切るようで、少し救われたのに。

今もポケットに入っている飴は、君に教えてもらったものなのに。