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「へ、なんで」
日誌私出しとくから先に帰って大丈夫だよ、と送り出したはずの佐藤くんは、校門近くに軽く腰掛けていた姿勢から立ち上がる。
「あ、お疲れ様、伏舞さん」
「いや、あの、佐藤くん、」
佐藤くんは何も言わずに、お財布を探る。
「これ今日までなの、一緒に行かない？」
お好きなドリンク1杯無料と書かれた2つの券。
佐藤くんはその片方を私の手のひらに乗っけると、「萩原がくれたの」と続ける。
「あとは頑張れ〜」
藍那のそんな声が脳内再生されて、ことの意味を理解した気がした。
「佐藤くんそれ甘くないの？」
けろっとした顔で振り向いた佐藤くんの手には、生クリームとチョコレートソースが追加されたフラペチーノが握られている。
そういう私もバニラフラペチーノなんだけど。
「甘くて美味しいよ、伏舞さんも甘いの飲むんだね」
.......ずっと飲めたらいいけども、甘いもの。
その想いを頭で消して微笑み返す。
その会話を最後に、またお互いに沈黙が続いた。
「伏舞さんってさ、なんか苗字とイメージ逆だね」
佐藤くんのその声に、彼を見た。
「雪の種類にあるんでしょ？ふすまって、」
「あ、うん、衾雪だね」
Aの苗字は、とても綺麗な名前なんだ。
父にそう言われて調べた自分の名前。
一面に積もる雪が、脳内で再生される。
「ん、でも名前通りじゃないって？」
「雪みたいに真っ白で綺麗な心持ってる穢れない人だと思ってたけど割と人見知るから意外だった」
でも純粋なのは想像通り、とチョコフラペチーノを口にする佐藤くんの髪が月に透けた。
「………まぁまぁ珍しい苗字だけどね」
「綺麗だなって思ったよ、名前も伏舞さん自体も」
え、と思って佐藤くんを2度見する。
彼は何でもない様に微笑むと、首を傾げた。
………………心臓が。
心臓が早足になって、私はおもむろに立ち上がる。
「か、帰ろう佐藤くん!!」
「え、あ、うん笑」
私のバニラフラペチーノの容器を持つと、佐藤くんは颯爽と2つ分のカップをごみ箱に入れる。
「帰ろっか、また付き合ってね」
先に歩みだした佐藤くんの後ろで、私はしばらく固まって動けなかった。
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作者名：氷 雨 | 作成日時：2021年4月24日 0時
