佐 藤 く ん . ページ5
「あ、来てたんだ」
「あ、……」
ん??と軽く微笑んで入ってくる佐藤さんに「何でもない、今日からよろしくね」と短く返して日誌を開く。
「よいしょっと、」
カウンター内に置かれたパイプ椅子に、佐藤さんが腰掛ける。見るからに耐久性弱そうなそれは、ギイッと小さい音を立てて体重を支えていた。
「日誌??」
「あ、うん佐藤さんここに名前を……」
「佐藤さんて笑」
新でいいよ、全然。とその中性的な顔が微笑む。いつものやつ、ふわっとしてて優しい砂糖みたいな。甘い笑顔。ちなみにダジャレのつもりは無い。
「え、えっと、さ、佐藤さ……」
「その呼び方辞めなきゃ名前書かない」
「えっ」
推しに先生のお叱りを受けさせるわけにいかないと、頭の中でずっと唱えた名前が往復する。
新しいって漢字1文字で、 "あらた”。
「………あ、」
新くん。
………もう1回否定するけど、恋じゃない。絶対に。私は順序を追ってゆっくり恋を育てるタイプだから、一目惚れとかでは無い。あくまで推し。
それでも、恋愛感情じゃなくても。
大好きな推しの名前を呼ぶのは、こんなに緊張するものなんだろうか。
「…っ、ごめんむり、佐藤、くん……」
「えぇ笑」
まぁいいや、くんになったし。
佐藤くんはそう言いながら日誌に手を伸ばした。
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作者名:氷 雨 | 作成日時:2021年4月24日 0時