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ぼんやりした意識の中で、着信音が響いた。
「ん、………」
体が重い。あれになっちゃったのかな、今話題のあのウイルス。
ご飯を食べてないから、味覚が麻痺してるかも分からないまま電話に応じると、「もしもし」と第一声を発する。
「あ、起きてた？笑」
「っえ、」
松井くん、だ。でも何で。
あたふたしながら一気に覚めた目を擦ると、松井くんが電話の向こうで微笑んだ気配がした。
「え、松井くんなんで、」
「そうだ、水澤さん大丈夫？熱出たって聞いたけど」
熱下がった？という声に、脇に挟んだ体温計が音を立てる。
「えっと、今、…計って37.0……で、」
「あら、まだ若干微熱だね笑
それはちょっと心配かも、なんか俺にできることある？」
今、 少しだけ期待した、松井くんに会いたいって気持ちを頭を降って除外する。何かしらに掛かって移したら、でも。
「松井！」
栞田さんのやたら綺麗な顔と静かな声が頭に反響する。
イラついた、理由にそれなりの心当たりはあるけど。こんな単純で馬鹿みたいな感情いきなり芽生えたなんて認めるのは、なんか嫌だ。でも、でも。
「………松井くんに、会いたい……」
「え？」
小声だったつもりが、思いっきり呟いてしまった言葉に口元を抑えた。
「いや、えっと、ちが、これは違って、」
「違うの？普通に家教えてくれたらマップで行くけど……」
友達じゃん俺ら笑と言う声に、会いたい気持ちが更に大きくなる。
男の子の、友達。しかも相手は松井くん、だ。
「てことでAちゃん、ほんとに違う？笑」
「………ち、違わ、ないです、みなとくん……」
言わされたし、松井くんを名前呼びするこの感触が擽ったい。でも、何だかすごく心がぽかぽかする。
奏くんの声はどこか嬉しそうで、浮き足立った様子で家の住所を尋ねた。
そして最後に、楽しそうに「じゃあちゃんと横になって待ってて、Aちゃん」と微笑んで、その通話が切れる。
………みなと、くん。松井くんじゃなくて、みなとくん。
松井奏と、フルネームに大人数のプリクラを眺める。
栞田さんと前見た彼氏さんらしき人、ふんわりした印象のショートカットの子、茶髪の美少女、明るそうな男の子、そしてみなとくん。
つい上がった口角を抑えると、松井奏から奏くんに名前の表示を変えた。
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作者名：氷 雨 | 作成日時：2021年2月2日 23時
