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「うわ………」
休みの日から、やらかした。
手元で聞こえた音を頼りそれを拾うと、思った通り眼鏡に亀裂が入っていた。
片方はバキバキで、もう片方もひび割れてしまって、フレームが無事だっただけ良いくらいだ。
布団から体を起こすと、眼鏡をケースに入れてぼんやりした視界を何とか開いて階段を降りる。
あのストラップをバッグに付け替えると、たった2日の夢みたいな30分が蘇ってきて、つい頬が緩む。
イヤホンを突っ込んで、降ろした髪で顔を隠して俯きながら歩いて。
「なぁ!!」
イヤホンの合間を縫うような大きな声に、驚いてそれを外す。
「あ、やっと気付いてくれた〜、はいこれ、落としたで」
松井くんのくれたストラップが、その子の掌で静かに陣取る。
「あれ、違うた??」
「あ、いえ………」
ありがとう、ございます。と一礼して顔を上げて。
その子を顔を見て少し驚いた。
「合っとったか、いえいえ、気ぃつけてな笑」
じゃあ、と方言強めの言葉で去っていった子。
少しつり目な、その右下側に泣きぼくろ。綺麗に風に靡くふわふわした黒髪。自信に満ちたように堂々としているけど、嫌味な感じじゃない。強く立ってる感じ。
凛とした女性だった。
「新ごめんな、行こか」と言われ、それに答えた人も、少しだけつり目で、その左端にはその子と同じ泣きぼくろが付いていた。
手元のストラップと同じ外見の狼………男の子側がさらりと女の子の手を取ると、女の子は嬉しそうに指を絡める。
ふと、松井くんの苦しそうな顔が、一瞬フラッシュバックした。
「…………まぁ、空似だよね、」
そんな偶然、ね。ある訳ないよね。松井くんについてまだ何も知らないのに。
嫌な予感と苦味を無理やり噛み砕くと、眼鏡屋に足を進めた。
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作者名:氷 雨 | 作成日時:2021年2月2日 23時