【五条悟】ブラックスマイル

29. 人の時計は信じるな ページ31

【五条side】




少し何かを考えるように足元を見た後
彼女は真剣な表情で俺の方に向き直った。



『五条くんの言う通り

私、自分のことが嫌い。大嫌いなの。』


「…え、何いきなり」


この前の事、気にしてんのかな


『ずっと怒ってるかもしれないし

悲しんでるかもしれない。


だけど私はそれを顔に出す意味も見出せないし
やり方もいまいち分からない。

そもそも何に怒ってて
何に悲しんでるのかもよく分からない。


自分の事なのに何も分かってないの。

自分の事も、周りの事も
興味なさすぎて分かろうとしてなかったから。

正直言って今でも

呪いに対して誰のどの考えが正しいとか
世界の正しいあり方とか分からない。


だけど…もう辞める。そういうの。

自分を好きになれるように…
少しずつだけど、頑張ろうと思う』



自分の手をキュッと握るのを眺めながら
微笑んでいるその横顔が


高専の時にたった数回だけ見た
あの笑顔そのものだった。


「本当に綺麗だよね、君」

『ありがとう。行ってらっしゃい』


その後はいつも通りの笑顔に戻っていた。

横を通り抜けていこうとしたので
遠ざかる彼女の腕を掴んで振り向かせる。


『何？』


何でも無かった。

ただ、もう少し君のその綺麗な瞳の中に
自分が入っていたかった。


「…僕、やっぱAの事好きだなー」


『うん、何回も聞いてる』


「冗談だと思ってる？」


『…そうね、そうかもね。
それすらも考えたことが無かった』



そんだけ僕の事は眼中に無かったのかと思うと
まあまあ傷つくんだけど。



脈無しもいい所だマジで。
ワンチャン恵の方が可能性あるわってレベル。
まあ無いけど。

どうせ恵がなんか言ったから
全く変わらなかった彼女が動いたんだろうな。


うーわ、また妬いてる。一回り下のガキに？
拗らせもいい所だ。イカれてるな、僕。

まあ呪術師なんてそんなもんか。
どっかぶっ飛んでて『普通』だよね。


「僕は本気だよ。昔からずっとね」

『そう、どちらでも良いよ』




…3回目。思わず口角が上がる。


「前の約束覚えてるよね？」

『………』


彼女は笑顔のまま答えない。


「僕と今度デート。コレ確定事項だから」

『新幹線の時間、大丈夫？』


彼女に見せてもらった腕時計の時間は
出発時刻の30分前。


「…ヤッバ、行ってくる」




そして急いで東京駅に到着した後に気づいた。


その時計が、３０分早まってたことに。



やられた。

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