【gnsn】公女様！ (ページ5)

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____…と思っていたのはつい昨日の事。

「臨時小隊はこれで全員だね？臨時で結成されたとはいえ、手を抜くつもりはないよ。今から説明するから、しっかりと聞いておくように。」

敬礼して顔を下げている私達の頭上から降り注ぐのは執行官である公子タルタリヤの声。

大人しく待っていようと思っていたけれど、タイミングが悪いことに、先日読んだ【釵子秉燭愛しの伝】が頭を過ぎってしまったのだ。

【釵子秉燭愛しの伝】は最近流行している書物で、宮廷の女官である主人公と一国の王天子との悲しい恋の物語を描いた作品である。

一国のピンチに陥った天子が、恋仲である主人公に釵子を渡し、『これをお主が身に付ける時は、我との祝言の日か、それとも、我の弔いか。』

主人公は天子が戦に向かった後、ずっとその釵子を手に持ち秉燭になろうとも信じて待っていたが、帰ってくる日は来なかったという。

そんな悲しい物語だ。

タルタリヤが強くて絶対帰ってきてくれるって分かってはいても、よくよく考えたら第八小隊が丸々消息不明だなんて不気味で仕方ない。

だから私はこうして、自分の仮面を身に付け雷蛍術士の格好をして臨時小隊に紛れ込んだ。

「という訳で、二十分後ここを経つから隊での事前準備を怠らないように。」

タルタリヤが背中を向けると同時に、私達は顔を上げる。

説明ほぼ聞いてなかったけど、大丈夫かな…。

「ほら、次貴女の番よ。」

「え？」

隣にいた同じ雷蛍術士の格好をした女の子が私の肩をつんつんとつつく。

「＂え？＂じゃないわよ。臨時の隊だから仮面を外してそれぞれの素顔を把握してるのよ。何かあったら対応出来ないでしょ？」

臨時の隊に入った事が無かった私は衝撃の事実に目が回りそうな程混乱する。

タルタリヤがこの場に居ないとはいえ、バレるのは非常にマズイ。

しかし、時は待ってくれるわけもなく目の前の雷蛍術士の手によってフードと仮面が剥がされた。

ポカン、となってしまった顔を前に私は必死に言い訳を探す。

「こ、これは失礼致しました、公女様！！」

それはそれは凄い勢いで敬礼をとる彼女に、何事だ？と隊のメンバー達はこちらを振り向く。

先程まで＂お前最近彼女とどう？＂なんて話していたデットエージェントや重衛士達も冷や汗をダラダラと流しながら片膝をついた。

ど、どうしたものか…。

※
釵子：女官が礼装に用いる飾り簪
秉燭：灯火をともすころ