貴方と窓から見る景色裏【ONE PIECE】 (ページ16)

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『艇まで案内しろ』

3人分の夜泣きを乗り越え、3人分の寝顔を見ながらこっくりこっくり首を傾げていた時、後方から声がかかる。
育児でダウンした船員達の屍を避けて彼がやってきた。
少し声を落としているのは赤ん坊への配慮だろう。
相変わらず無愛想な表情だ。
彼は顎で真っ暗な外を指した。

こうも横柄な態度を取り続けるのは、ローを心底嫌っているからかもしれない。
姉を攫い、姉を喪った元凶なのだから当然だ。
ローもそれがわかっているから何も言わなかった。
重い腰を上げ、隣の椅子で雪豹の編みぐるみを手に寝落ちているイッカクにあとは頼むと声をかける。
それから育児に相当体力が削られているので能力は使えないと彼に伝えると、は? 親から貰った脚で歩くんだろ。
と至極真っ当なことを言われた。

男2人で歩く夜道は静かだ。
苔を踏みつけ、小枝を蹴る足音だけが沈黙を破っていた。
どちらも自己開示を積極的にする方ではなかったので当たり前と言えば当たり前である。
他の奴に道案内を頼めばよかったんじゃないか?
ローは自然とそう考えた。
嫌いな奴と2人きりになりたくないだろうし、こんな奴と話すことなんて無いだろうに。

隣を見る。
目線は彼女より上。
肩の位置はローと同じくらい。
そしてその表情は、姉とは全く違う顔をしていた。
あぁでもないこうでもないと頭の中で反芻して言葉を探しているような困惑した顔だ。
姉なら絶対しない顔だが、妙に親近感が沸く。
ローの視線に気付いたのか流し目でこちらを一瞥すると、心底呆れたようにため息を吐いた。

『･･･なんだよ、オレはこんな言い方しかできないんだ。悪いか』

言葉を上手く選べない。
そんな不器用さが彼の魅力。
そう弟を愛おしんだ彼女の笑顔が思い出される。
彼はローを嫌ってなんかいない。
悪く言えば表情筋が死んでる。
良く言えばツンデレというやつだ。
じっくり観察すればわかる事だった。

そしてローは腑に落ちた。
こんな弟がいたから、彼女は人の思考を言い当てるのが上手かったのか、と。
思いがけず彼女の秘密が見えた気がして自然と口許が震える。
それを見た彼は侮辱されたと勘違いして、怒って、ローに食ってかかった。
お前よりマシだ。
表情筋が死んでても怖がられることはない。
姉と同じ顔なんだからな。
ローは強がる彼を
あぁそうだなと肯定して、また道を歩み始めた。
彼は優しくなんでも許してくれた姉を思い出して何も言えなくなった。