Bouquet. ( ar×in shortstory )

＊ ページ18

in side .



｢大貴様、紅茶をお持ちしま…｣


お勉強の後、お部屋に紅茶を持っていくと、机に突っ伏して眠る大貴様のお姿。

ここ最近忙しくなって、疲れが出たのだろう。

気持ちよく眠っている大貴様を起こさないよう、そっとブランケットを掛けた。


傍の椅子に腰掛け、ふと、先日の大貴様の言葉を思い出した。



" 慧っ！俺、さつきさんと仲良くなれそう！ "


" それは何よりです。よかったですね、大貴様。 "


" へへっ、慧のお陰だよ！背中を押してくれて、ありがとう！ "


" ！…私には…勿体ない、お言葉です。 "


" 俺、有岡家のために、頑張るからね！


…俺が頑張ったら、慧も嬉しい？ "


" ……はい。とても、嬉しく思いますよ。 "



____そんなの、嘘だ。


俺は、彼の前で何度、自分を偽ればいいのか…



…例えば、俺が執事ではなければ、


例えば、大貴様がご主人様でなければ、


そもそも最初から出会わなければ、


こんなに苦しい思いをすることはなかっただろう。



｢っ…だい、き…さまっ…｣



" すきです "


なんて、たった4文字でさえ、


…この想いを伝えることは、決して許されない。



知らぬうちに涙が頬を伝っていた。

そしてそれは、大貴様の頬にポタポタと零れ落ちる。



｢……ごめん、なさ…い……｣



ハンカチで濡れた頬を拭い、無防備に眠るその唇に、そっとキスを落とした。



｢ん…｣

｢っ…！失礼、しますっ…｣


大貴様に気づかれないよう、急いで自室に戻った。


. . ﾄﾞｸﾝ ﾄﾞｸﾝ ﾄﾞｸﾝ . .


心臓が五月蝿い。

罪悪感と後ろめたさで一杯で、いっそこのまま消えて無くなってしまいたいとさえ思う。


…苦しい

苦しいんです、大貴様


これ以上はいけないと、分かっているのに…


貴方を想う度、胸が張り裂けそうになる。



｢っ……俺は、なんてことをっ……｣


…これではっきり分かった。


俺には、この役目は務まらない、と。


これからさつき様と運命を共にする大貴様を、今まで通りお傍で見守る自信がない。


……俺は、執事失格だ。



____その夜、


"退職届"と書いた封筒を、そっと引き出しにしまった。




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