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17話 ページ17

「……すごく、懐かしい…。」



Aは名残惜しそうにそっとグランドピアノの蓋を閉じると、音楽室の奥にある楽器庫と呼ばれる部屋に入った。



普段は吹奏楽部員しか立ち入れない場所だから僕は入ったことがない。

しかしAは慣れた手つきで扉を開くと、なんの躊躇いもなく中へ入って行った。



記憶が失くなっても、Aの身体はちゃんと覚えているんだ。

この扉の開け方やこの部屋に何があるのか。
きっとAの身体に今も染み付いている。



「わかる…わかる…時透君、私、どこに何の楽器があるかわかる!」



Aはきらきらとした笑顔でそう言った。

これは良い兆しだ。彼女の記憶の蓋が開きかけたということなのだから。


何か少しでも思い出せたなら、これ以上に嬉しいことはない。



「一番上の棚がフルートとオーボエ、二番目がクラリネットとファゴット、三段目がサックス…こっちの一番上がトロンボーンとトランペットで下がユーフォ、床に倒してあるのがチューバ…打楽器は奥……ちゃんと、わかる…!」



Aは心底嬉しそうにそう言った。 僕は楽器について詳しくないから分からないけれど、副部長だった彼女が言うのだから間違いないのだろう。


間違いない。少しずつではあるけれど、彼女は失くしてしまった記憶を取り戻しつつある。

それがまるで自分のことのように嬉しかった。



Aは懐かしむような視線を部屋の中に落としていた。



「私、この場所がきっと大好きだった…。」



そう告げたAの表情は、何かを懐かしむような、そんなものに見えた。

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白霞(プロフ) - いちごアメさん» 応援のお言葉ありがとうございます。面白いとも言って頂けて嬉しい限りですございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月19日 17時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
いちごアメ - とっても面白いです!!これからも頑張ってください (2020年8月18日 21時) (レス) id: 77a7bd0b14 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - つぶやき星のつぶやき女さん» そんな風に言って頂けて光栄の極みでございます!素晴らしい作品だなんて畏れ多い…!最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月18日 12時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
つぶやき星のつぶやき女 - す、素晴らしい!泣きました。とても面白い、悲しい?ような気がして面白かったです。(伝わらないような気がする。語彙力無くて、すいません!)とにかく素晴らしい作品でした。お疲れ様でした。 (2020年8月17日 21時) (レス) id: 9c9562d775 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - くれーぷさん» そのように言って頂けて嬉しい限りです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2020年7月28日 19時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月26日 0時

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