1話 ページ1
あれは、中学三年生の卒業式の日だった。
.
.
僕はいつも近所に住む幼馴染のAと一緒に登下校をしていた。兄さんも一緒に三人で。
Aはよく笑う女の子だった。暖かくて一緒にいられるだけで安心する。まるで陽だまりのような少女だった。
何か嫌なことがあっても次の瞬間には楽しそうに笑っている。そんな前向きで真っ直ぐな彼女が大好きだった。
この気持ちが何なのか聞かれたら、恋なんだと思う。ずっとずっとずぅーっと好きだった。
大切で仕方なくて、はじめて自分の手で守りたいと思った人だった。
__あの日、卒業式の日も、僕らは一緒に帰っていた。
ただ、僕の気持ちを知ってる兄さんは「卒業式くらい二人で帰れ」と、僕に気を利かせてくれて違う友達と帰った。だから、その日は二人で並んで帰ったんだ。
いつもと変わらない通学路なのに、その日はやけにアスファルトが透き通って見えたんだ。
「もう高等部だなんて早いよね。」
「…そうだね。」
あの日の彼女は、少しおかしかった。
中高一貫校なんだから同じメンバーで高等部に上がれるのに、酷く悲しそうな顔をして卒業証書を受け取っていた。
周りの友人達からも「なんでそんなしんみりした顔してるの」と茶化されていた。
でも昔から酷く感情移入しやすいところがあったから、“卒業する”という肩書きに囚われて寂しんでいるのかな、くらいに思ってた。
「高等部入っても同じクラスになれると良いね。」
勇気を出して、言った言葉だった。
これじゃあまるで、ずっと一緒にいたいって言ってるようなものじゃんか…。
顔に熱が集まるのがわかる。暑い季節でもないのに酷く汗ばんでワイシャツが張り付く。熱い。
恐る恐る、Aの方を見る。
少し驚いたような雰囲気を醸し出した彼女は、すぐに優しい表情をした。
「私も。同じクラスになれたら良いなって思ってる。」
ふわりと笑う彼女に、酷く魅せられた。
そんなこと物理的には無理なのに、心が取り込まれたような気がした。
161人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白霞(プロフ) - いちごアメさん» 応援のお言葉ありがとうございます。面白いとも言って頂けて嬉しい限りですございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月19日 17時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
いちごアメ - とっても面白いです!!これからも頑張ってください (2020年8月18日 21時) (レス) id: 77a7bd0b14 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - つぶやき星のつぶやき女さん» そんな風に言って頂けて光栄の極みでございます!素晴らしい作品だなんて畏れ多い…!最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月18日 12時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
つぶやき星のつぶやき女 - す、素晴らしい!泣きました。とても面白い、悲しい?ような気がして面白かったです。(伝わらないような気がする。語彙力無くて、すいません!)とにかく素晴らしい作品でした。お疲れ様でした。 (2020年8月17日 21時) (レス) id: 9c9562d775 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - くれーぷさん» そのように言って頂けて嬉しい限りです!こちらこそ閲覧ありがとうございました! (2020年7月28日 19時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:白霞 | 作成日時:2020年7月26日 0時