優しい夜 ページ10
バイトを終えて外に出ると、外の空気はもやもやとしていて、梅雨入り前の空気があった。
私は厚着できたのを後悔し、カーディガンのボタンを外してかばんにいれた。
駅へと続く大通りに差し掛かったとき、ともちゃんの言っていた会は今日だったということが、突然頭をよぎった。
ふと、駅と反対方向に向かって踵を返していた。
クラス会が行われている店はこの通りにあった。
顔を出す気はなかったし、もう10時をまわっているので、他に移動しているだろうな、とは思ったが、なんとなく、店の前だけでも通ってみよう、という気になったのだ。
卒業式の日以来、私と坂田くんが会うことはなかった。
駅や近所のスーパーでも、会うことはなかった。
そんなことをぼんやり考えていると、突然、通りの向こうから騒がしい声が聞こえ、私は我に返った。
それが、中田君の声だったような気がして、私は慌てて顔をふせた。私は目立たない女の子だったし、見ても分からないかもしれない。
それでも、うっかり同級生達と遭遇などしないうちに早く帰ろうと、方向をかえて歩きだそうとしたとき、ビル横の薄暗い非常階段で、黒い影が動いたのが見えた。
私はその影に目を奪われた。
ゆらりと動いたのは一瞬で、その影は、私と目が合うと、そのまま静止したように見えた。
私は顔を伏せるのも忘れて、息を飲んだ。
見間違いかと思ったが、そこにはたしかに人影のようなものがあった。
信号が青になった。
ピコンピコンと一定のリズムで音が鳴る。
信号待ちをしていた人たちが、うまく人並みを避けながら交錯していく。
そのとき、影がうごいた。
早足で、横断歩道を渡ってくる。
私はそれにハッとして、走り出した。
会ってはいけない、と無意識のうちに思って、駅までの直線をかけていく。
運動不足で急に走ったので、肺が痛い。
それでも私は足をとめなかった。
改札口が見えてきたときだった。
「待って!」
後ろから腕をとられて、聞き覚えのある声が私を捕まえた。
ゆっくりと振り返ると、懐かしい赤い頭が、息を切らしながら私を見ていた。
「やっぱり、Aちゃんだ」
やはり、あの影は彼だったのだ。
「ひさしぶりやね」
「…………坂田くん」
彼は目を細めて、困ったように眉を下げた。
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りひと(プロフ) - たまさん» たま様/コメントありがとうございます!またコメントをいただけて嬉しいです!続編のほうも、引き続きよろしくお願いいたします! (2019年12月24日 11時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
たま(プロフ) - こんにちは!グッドイブニング・トウキョウから引き続きずっと読んでいます。坂田さんsideも入れて頂きありがとうございました。これからの逆襲編も楽しみですし、また坂田さんとくっつくのも楽しみにしております。これからも応援しております。 (2019年12月24日 11時) (レス) id: a928baf79e (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - shioriさん» shiori様/コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです!今後も楽しんで読んでいただけるよう努めて参りますので、応援のほどよろしくお願いいたします! (2019年12月22日 3時) (レス) id: 643f7a330d (このIDを非表示/違反報告)
shiori(プロフ) - 初コメ失礼します!浦田さんのキャラめちゃくちゃいいですね!元々惚れてますけど余計に惚れますね!応援してます!更新頑張ってください! (2019年12月22日 1時) (レス) id: f06d85eb8e (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - ゆずの実さん» ゆずの実様/コメントありがとうございます!どんどん更新して参りますので、今後とも応援のほどよろしくお願いいたします! (2019年12月21日 13時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:りひと | 作成日時:2019年12月13日 23時