グットイブニング・トウキョウ【あほの坂田】 (ページ28)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:90,650 hit

. ページ28

「それで、聞いてくれた？」

朝一番で聞いてきたのは、早坂さんだ。

私は早速来たなと思いながら、小さな声で答えた。

「う、うん。優しくて、笑顔がかわいい子って、言ってたよ」

好きな子がいる、というのはあえて伏せた。

早坂さんのことだ、次はその子がどこの誰なのかを調べてこいというに違いない。

万が一、この学校でさらにこの学年だった場合、その女の子は確実に早坂さんグループのいじめを受けることになるだろう。

私はそんなのはごめんだったので、坂田くんが言った中で、あたりさわりのない、早坂さんが喜びそうなところをチョイスして伝えた。

「そうなんだ。じゃ、私も可能性あるってことね。Aさん、ありがと」

彼女は、私はもう用済みだと言わんばかりに、ひらひらと手を振って軽快な足取りで、自分のグループに戻っていった。

坂田くん、ごめん。と心の中で意味もなく謝って、ため息をこぼす。

早坂さんはきっと、すぐにでも坂田くんをデートに誘うだろう。

坂田くんは、早坂さんと一緒に出かけるのだろうか。

自分の場所が取られたような気分になって、すこしだけ胸のあたりがチクリとする。

考えても仕方のないことなのだ。

私はいつもそうやってきた。

今回も、きっとそれと同じだ。

換気だと空けた窓から、まだ少し冷たい春の風が流れ込んでくる。

窓の外では、桜のつぼみが大きくなって、ピンク色に色付き始めていた。

もうすぐ卒業式だ。

それが終われば春休み。

春休みには、坂田くんとテーマパークに行くことになっていた。

楽しみではあったけど、早坂さんのことを考えるとなんとも言えない不安が胸にひろがってくる。

もうすぐ、高校最後の1年が始まるのだ。