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うだるような暑さとべっとりとまとわりつくような熱気に私は思わず顔をしかめた。
夏休みだからだろう。
待ち合わせの定番となっている駅前の広場では、私と同じくらいの年頃の子たちがスマホを熱心に覗き込んでいる。
10時。いつもの夏休みならようやく起き出すくらいの時間だった。
そんな中、私がアホみたいに暑い外に出てきている理由はひとつだ。
「Aさん!!」
向こう側から手を振る見慣れた赤い頭。
夏休みにどこか行こう、といった話は現実化したのだ。
「おはよう、坂田くん」
「あっついねー!!」
「ほんとにねえ」
坂田くんは手をパタパタさせてあおいでいる。
首筋には汗の玉ができていて、なんだか色っぽい。
私は急に気恥ずかしくなって、私は「行こっか」と坂田くんに声をかけた。
初めて2人で出かけた先は、水族館だった。
冷房の聞いた館内は、夏休みだからか小さな子供連れの親子が目立つ。
開館したばかりなのに、混み合い始めている。
「すずしー!!」
坂田くんは魚を見る前からごきげんだ。
3階分くらい吹き抜けになってる場所に設置された、高さも横幅もある大きな水槽で、イワシが群れになって泳ぎ続ける。
銀色に光る1枚の布が翻っているように見える。
天女の羽衣みたいに弱々しいものではなくて、応援団の旗のように力強い。
イワシの他に、色も大きさも様々な魚が泳いでいる。
イワシは休むことなく泳ぎ続ける。
水槽の中をぐるぐる回っているように見えるが、どこかへ行こうとしているのだろうか。
それとも、ただ回りたいだけなのだろうか。
ここの水族館では、1番大きい水槽だけど、海に比べたらずっと狭い。
ここにいる魚たちは、広い海で暮らしていたら、出会わなかったかもしれない。
水族館で生まれた魚も多くいるけれど、海から連れてこられた魚もいるのだろう。
自分は水族館生まれでも、親は海生まれという魚もいるんじゃないかと思う。
同じ水槽で暮らす魚や外の世界のことをどう思っているのか、聞いてみたくなる。
「Aさん？」
坂田くんに名前を呼ばれて横にいた彼の顔を見上げた。
坂田くんは、不思議そうに私を見つめている。
「考えごと？」
「あ、うん。ぼーっとしてた！ごめんね」
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作者名：りひと
| 作成日時：2019年11月12日 17時
