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渉さんは、お酒を全くと言っていいほど飲まない。
けれども、今日は少しだけ、本当に少しだけお酒を飲んだ。気分が悪くなるわけではなかったが、彼はお酒が入るといつもより饒舌になるらしい。
「なあ、A」
「はい？」
エメラルドをはめ込んだような瞳に見つめられると、胸が高鳴る。渉さんはビールの入ったグラスを置いて、少しだけ真面目な顔をして口を開いた。
「センラと仲良いの？」
「……え？」
藪から棒にそんなことを聞かれて、思わず間抜けた声が出た。
たしかに彼らは大学時代からの知り合いらしいということは聞いていたが、まさか渉さんの口からセンラの名前が出てくるだなんて思いもしなかった。
言葉に詰まった私に、渉さんは言い訳のように慌てて続けた。
「いや、違くて。今朝、一緒に出勤してきたじゃんか。それで、センラとAって仲良いんだなって思って。センラとは長い付き合いだけどさ、あいつ、昔っからモテるから……」
渉さんはときどき、特に仕事ではないときは、順序や論理なんて関係なく思いついたまま口にすることがある。
その言葉はあまり聞きなれなくて、私の頭では理解するのに時間を要する時もある。
そんな彼の様子を見ながら、彼の真意を探ろうと頭を巡らしていると、渉さんはほうっと息をついて困ったように眉を下げて笑った。
そのまま左の手のひらで口元を覆うと、
「……ごめん、こんなこと言う権利、俺にはないよな」
と言った。いつになく篭った声で言うものだから、胸の奥からぐっと何かが込み上げてくる。それはちょうど喉の辺りでつっかかったようになって、息が出来なくなるような錯覚さえ起こした。
ずるい、そんなの。
渉さんの薬指に光る指輪は、彼に永遠を誓った人がいる証拠。渉さんが、他の人のものだと言う証。
それなのに、いま彼は私を自分のものであるかのように扱おうとした。
その身勝手さが嬉しいと言ったら、渉さんはどんな顔をするのだろう。
私がセンラと仲がいいのだと告げたら、それどころか、身体の関係もあるのだと知ったら、彼はどんな顔をするのだろう。
ふつふつと湧き上がってくる黒いものは、表に吹き出ることなく静かに滾っていく。
そんなことをしても、渉さんを困らせることしか出来ない。分かってる。
そもそも、私は彼を困らせることしか出来ないのだから、そんなことはできるわけもない。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...？何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (
レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します！めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です！更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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