Chocolate cosmos ページ38
次の日、私たちは(不本意だが当初の予定通り)連れ立って会社に向かった。
もともと最寄り駅はさほど離れていないし、たまたま朝一緒になったりもするから、怪しまれるという程ではない。
むしろ、よく2人で飲みに行ったり遊びに行ったりしているから、関係を疑われるくらいだ。
仕事では爽やか君を演じているセンラも、実は起き抜けは低血圧で機嫌が悪く、あまり話さない。
ふたりとも無言でコーヒーを飲んで家を出て、寒空の下を歩いてようやく覚醒し始めたところで満員電車に乗り込んだ。
通勤途中のおじさんたちにぎゅうぎゅうと押しつぶされながら、違いに凭れあってスペースを確保する。センラはまだ眠たそうに手すりに寄りかかりながら、うつらうつらと船を漕いでいた。
「ほら、着いたよ」
「あ、ほんま?」
最寄り駅に着いて私が声をかけてようやく、彼は仕事モードのスイッチが入ったらしい。さっきまでの寝ぼけ眼はどこへやら、ぱっちりと目を開けている。
波に流されるようにして改札を抜けていつもの道を歩く。駅から会社まではだいたい10分程度で、うちの会社はオフィスビルの4階に入っているから、この時間は色んな会社の人が入り乱れていて同じ会社の人に会うことは滅多にない。
あったとしても、遠巻きに会釈するくらいなのだが、こういう日に、会いたくない日に限って会ってしまうものなのだ。
「あ、Aちゃん。おはよ」
いつもなら会いたくて仕方ないのだけれど、今朝だけは会いたくなかった。
「渉さん」と呼びそうになって慌てて口をつぐんだ。その言葉を飲み込んだ後、何事もなかったかのように笑みを貼り付けて
「おはようございます。浦田さん」
と答えた。
「センラも、おはよ」
「はよー」
センラは渉さんと同じ大学の先輩後輩で仲が良かったらしく、互いに敬語を使わずに話している。その事情を知らなかった最初は、センラの口の利き方にハラハラとしたものだった。
けれどいまは、渉さんと社内で話すたび、私と渉さんの関係が会社の人にバレてしまわないかと不安になる。センラは例外だが、どこで見られているのか分からないというのが怖いのだ。
もちろん、渉さんは私とセンラがどういう関係にあるのかは知らない。そして、センラが私たちの関係を知っていることも、知らない。
渉さんは私たちを不思議そうに見比べたが、それ以上なにも聞くこともなく「じゃあ」と言って先にエレベーターに乗り込んでいった。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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