. ページ35
センラに強く抱き締められたかと思うと、あっと言う間にソファに押し付けられる。
そしてまた、センラの思うがままにされてしまうのだ。
これまで何度も彼と体を重ねているせいか、私の体はセンラの動きを無意識に予測し、自分がどう対応すればそれに応えられるのかが分かっている。彼もそれを分かっていて、私がピクリと反応する場所に優しく触れ、徐々に私の力を奪っていくのだ。
お互い、心を見せ合うことなく、そして何の変化も求めないまま体だけを重ねる日々。消してそれを望んだわけではないけれど、お互いがお互いを慰めるために必要なだけ。愛している人に愛されない寂しさを埋めるだけ。
私は、弱い人間だと思う。
渉さんのことを愛してやまないのに、それと同じくらい寂しくて、彼から別れを告げられるのが怖い。呆れられるのが、面倒だと思われることが、怖くて仕方ない。
だから、こうしてセンラに求められれば、受け入れる。その現実を忘れられるから。
呼吸が落ち着いてきた頃、ソファの横にあるローテーブルの上で、センラのスマホが震えた。ここにきた時はまだ明るかったのに、すっかり暗くなっていてスマホの画面だけが煌々と光っている。明らかに電話で、しかもかけてきたのは女の子のようだ。きっと、センラの”お友達”のひとりだろう。いつまでも出ようとしない。
「出れば？」
いつかの会話のように今度は私が言えば、センラは「ごめん」と断ってしぶしぶといった様子でスマホを取った。
「なに？」
いつもより低い、不機嫌そうな声に、私は驚いて彼を見た。センラは私の視線に気づくと立ち上がり、寝室に消えていく。向こう側から「何やねん、お前」と言うセンラの怒った声が聞こえて、さっきまでの熱がすーっと消えていく。戻ってきたと思ったら彼は毛布を抱えていて、それを私の方を見ないで渡す。顔は暗がりの中でも不機嫌なのが分かった。
「今日？そんなん知らんわ……はあ？俺、付き合うとかひとことも言ってへんやろ」
センラも叶わぬ恋をしていいそうだというのは私の見解だが、決して人に言えない恋愛をしているわけではない。それどころか、大学時代から付き合っていた彼女と別れてからは、誰かと真剣に付き合っているのを見たことがないのだ。社内の女性から絶大な人気を誇る整った顔をしているから、引く手数多なのは理解できるが。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 488人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...？何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (
レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します！めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です！更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
