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「ごめん、嘘。あ、いや、嘘ではないんだけど………」
言いにくそうに口ごもった渉さんに不思議に思っていると、
「…………Aの声、聞きたかったから」
「え？……いま、なんて」
心臓が止まったかと思った。
聞き違いかと思って聞き返せば、渉さんは
「声、聞きたくて電話した。こんな時間に、ごめん」
ともういちど言ってくれた。
甘い声は蜂蜜みたいで、そこからどろどろと溶けてしまいそうな気さえする。
ああ、どうして渉さんが私を求めてくれている。
そう実感するだけで、私の胸は息ができなくなるほど苦しくなる。ひとりでいるときに私のことを思い出してくれた。私の声を聞きたいと思ってくれた。
苦しくて、嬉しくて、どうしようもない想いを溢れさせないようにぎゅっと目をつむる。
時間にして、ほんの2,3分だったと思う。
でも、たったそれだけの時間で私はどうしようもなく満たされて、この時間をいつまでも終わらせたくないと思ってしまった。
電話の終わりに、渉さんが「A」と甘い声で私を呼んだ。彼の声で呼ばれる私の名前は、どこか特別なように感じる。
「いつも無理させてごめんな」
「そんなこと………」
彼の言葉に、じわりと視界がにじんだ。
無理なんてしていない。そんなこと、思ってはいけない。彼に縋ったのは、渉さんを求めたのは、私なのだから。
そう頭では分かっていたし、我慢なんてしているつもりもなかったけれど、自分ですら気づかなかった、認めたくなかった気持ちに、渉さんはいとも簡単にその鍵を開けた。
私から渉さんを求めてはいけない。
渉さんの生活を壊すわけにはいかない。
私は、渉さんの穴を埋めるためだけの存在なのだから。
「声、聞けてよかった。おやすみ」
それなのに、渉さんは私のことを本当の恋人のように、丁寧に扱ってくれた。それこそ、勘違いしたくなるくらいに。だから私はますます彼のそばから離れられなくなってしまう。
「私も………電話、嬉しかったです。おやすみなさい、渉さん」
渉さんの何気ない言葉も、私にとっては宝物で、涙がこぼれないようになんとか繕う。
こんなふうに、毎日こういうことを渉さんと言いあえたなら、どんなに幸せだろう。
そう思わずにはいられないほど、彼の言葉は私の胸をいっぱいにして、電話が切れると同時に、私の目からは我慢していた涙がこぼれ落ちた。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...？何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (
レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します！めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です！更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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