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そんな関係が続いていた入社2年目のある日、渉さんと約束していた日のことだった。
その頃の私は、すでに渉さんと関係を持っていた。彼とのデートを夜に予定していて、仕事をなんとなくこなしながら、彼からの連絡を待っていた。
渉さんに会えるのを楽しみに待っていた。
けれど、定時になる直前。
待ち望んでいた相手からの連絡は、私を落胆させるには充分だった。
うらたさんごめん、家に帰らなきゃならなくなった
その言葉は、これ以上ないほど私の胸を抉った。
自分のために、私のために、そして何より私たちの関係を守るために、渉さんはいつだって家庭を優先した。
頭で分かっていても、奥さんが1番なのだと、唯一なのだと言われている気がしてならなかった。
けれども私の立場では、それを拒むこともわがままを言うこともできなかった。
渉さんとの関係を望んだのは、私だから。
だから私は、全部ぜんぶ飲み込んで「わかった」とだけ返信する。
沈んでいく気持ちに、パソコンに展開されている書きかけの図面が滲みそうになって、私は俯いて奥歯をかみ締めた。
ちょうど、そのときだった。
「A。今日、飲みいかへん?」
とセンラが誘ってきたのは。
「うん。行く」
この気持ちを紛らわすにはちょうどいいと思った。言いたくても言えない渉さんとの関係は、このときセンラにも伝えていなかったと思う。
「肉の気分」
私が言えば、センラは笑う。
「乗った」
定時から少しだけ残業をして一緒にあがり、私とセンラは会社から少し離れたダイニングバーで飲んでいた。
「ねえ、今年の建築設計デザインコンクールはエントリーしたの?」
「ああ。課長たちから絶対に参加せえって強制的に。大学時代から参加しとったけど、ここに入ったからには逃げられへんやろ」
「私は逃げたよ。仕事こなすだけで精一杯だもん」
「逃げたん?」
「うん。課長たちにも来年もあるし、ぼちぼち頑張れって言われたし」
「ぼちぼちねぇ………けど俺はやっぱ、大賞を取りたいんよなぁ」
センラはそう言って、手元に残っていたビールを飲み干すと、近くにいた店員さんにおかわりを頼んだ。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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