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その次の日、出社してきたセンラは少し不機嫌そうだった。
「朝からなんて顔してんのよ」
「うっさいわ」
「そんな顔してると、いい図面できないわよ」
じろりとセンラが睨みつけてくるのを、私は肩を竦めてそれをかわした。こういう軽いやり取りは、センラとだからできる事だ。
同期入社の私とセンラは、内定式で隣の席についたことがきっかけで言葉を交わすようになった。
大学時代から建築関連のコンクールで入賞を繰り返していたセンラの名前と実績は、別の大学に通っていた私の耳にも届いていて、雑誌に取り上げられた作品を見る機会もあった。
きっと、建築を学んでいる若者の多くは「折原センラ」という名前を認識し、励みにしていたはずだ。
当然、私もそのひとりであり、内定式にその本人に出会えたときの驚きと嬉しさ、はいまでもよく覚えている。
憧れといえば大袈裟だが、同期の私には追いつきたくても追いつけない才能の塊で遠い存在だった。
そんなセンラと接するたび、彼のこれまでの経歴は生まれ持っての才能ではなく、ほんの少しの才能とそれを足がかりとした途方もない努力の結果だと気づいた。建築の世界で生き抜いていくための努力と決意。
センラの口から出る言葉からは、それが強く感じられた。
内定式から入社式までの間に、何度か会社に招集され、研修や配属希望の面談などをこなし、その合間に同期のみんなで食事をした。
入社を前に結束を固めつつあった同期の中でも、特にセンラと私は親しく話すようになり、入社後も同じ部署の配属ということも重なって、その関係は続いていた。
当時の私はまだまだ学生気分が抜けず、子供の頃から憧れていた職業につくことができた喜びに満ち溢れていた。
センラも同様で、入社してからどんなことをしたいかだとか、いつかはコンクールで大賞を取りたいという夢も語っていた。自分の想いを熱く語るセンラが輝いて見え、それに私も刺激を受けた。
私とセンラは同じ部署の配属ということもあり、仕事終わりに飲みに行き、仕事について話すこともあった。
入社一年目は、仕事を覚えるのに精一杯で、憧れの先輩である渉さんに褒めてもらおうと必死だった。自分の力不足を日々実感しながら図面を睨み、先輩にサポートしてもらいながら現場を回る毎日。覚えることが山積していて、お世辞にも余裕のある時間を過ごしているとは言えなかった。
けれど、充実しているのも事実だった。
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あ(プロフ) - 初コメ失礼します。りひとさんの作品がとても大好きで過去作品も全て読ませて頂いております。続編もぜひ読みたいのですが、パスワードをお教えしてもらうことは出来ますでしょうか...?何分仕様が分からず、この場で聞くこと自体間違っていたら申し訳ありません。 (2021年2月10日 1時) (レス) id: e8d9509923 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - あすかさん» 返信遅れてすみません。コメントありがとうございます。更新頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年12月14日 21時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
あすか(プロフ) - 初コメ失礼します!めちゃめちゃ面白くて見る度に評価押しちゃいます(笑)今1番を楽しみにしている作品です!更新頑張ってください(T_T) (2020年11月5日 21時) (レス) id: a6330c149b (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - いずりすさん» ありがとうございます。いつもと違うテイストに挑戦するので私自身もどきどきしています笑お楽しみいただけるよう頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします。いずりすさんも体調には気をつけてくださいね。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - Quuさん» ありがとうございます。お楽しみいただけるよう頑張ります。Quuさんもお体に気をつけてくださいね。今後ともよろしくお願いいたします。 (2020年10月14日 22時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
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