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夜の少し冷たい風が頬を撫でていく。
「Aはお母さんのこと………覚えとる？」
今度は首を横に振る。
「私が生まれて直ぐに、死んじゃったから……」
「そか」
センラは小さく息を吐いた。
「俺、お母さんと………ナナとは知り合いやったんや」
「……え？」
「Aのお母さん、天使だったんよ。天界にいた頃、知り合いやった。まあ、100年以上前の話やけど」
ようやくそこで、自分がなぜ禁忌の子と言われるのか、納得がいった。そして、屋敷に連れてこられた当初、センラが自分を通して誰を見ていたのかも。
「…………センラさんは、その……お母さんのこと」
「好きやったよ。俺の片思いやったけど」
即答だった。
迷いのない声に、Aは少なからずショックを受けた。彼は100年もの間、ずっと母を想い続けていたのだろうか。どんな気持ちで、いままでいたんだろう。
もう会えない人のことを思い続けるのは、きっと苦しかったに違いない。
「だから、センラさんは最初から私を食べないって言ってたんですね」
合いの手を入れるように、汽笛が鳴った。
「最初はそれが理由やった。ナナとそっくりなんよ、A」
「私が？」
「似とるよ。笑ったとことか、雰囲気とか」
話したことのない母と似ていると言われても実感は湧かないが、血が繋がっているのだという嬉しさがこみあげる。
「………そうなんですね」
「ようやく笑ったな」
センラが安心したように微笑んだ気配がした。そういえば、いろいろ思い詰めていて沈んでいた気分が、少しだけ晴れたような気がする。
「………けど、Aを助けたのは、ナナがいたからじゃない」
「え………？」
思わずAが顔を上げると、センラは何かを決めたようにAを見つめていた。闇夜に浮かぶ月のような彼の瞳は、包み込むような優しさを宿している。
「A…………」
その眼差しに、Aは捕らわれたかのように動けなくなった。どこか甘やかな色は、その先の展開を予想させ、心臓がうるさくなる。センラが何かを囁こうと息を吸った瞬間、船内に続く扉がガチャりと開いた。
「あ、おった」
突然聞こえた声に、Aはビックリして飛び上がり、声の主に顔を向けた。
「志麻さん」
「なに、お取り込み中やった？」
「いや、なんも。志麻くんこそどうしたん？」
「俺はちょっと、休憩」
「………そか」
志麻はそう言いながら、当然のようにAの隣に来た。
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ちょこ - とてもよかったです！その後話がもっと欲しい！ (2022年6月26日 23時) (
レス) @page23 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 気づいたらこのお話に飲まれてました。とても素敵なお話をありがとうございました。他の作品も読みます！(*'▽'*) (2022年6月20日 21時) (レス) @page23 id: 020978a023 (このIDを非表示/違反報告)
ぷ(プロフ) - 読むたびに世界観に飲まれていきました。気付いたら最後まで読んでいました。素敵な世界を覗けてよかったです。ありがとうございました。 (2020年9月10日 20時) (レス) id: 5dd39aece4 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - 水無。さん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけたのであれば何よりです。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月4日 23時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
水無。(プロフ) - ことで話にのめり込みやすかったですし、特に坂田さんの初々しいしい恋の表現の仕方には毎回きゅんきゅんさせられました。りひとさんの作る作品が大好きです。新作も前の作品も漁ってたくさん読みたいと思います。素晴らしい作品をありがとうございました！ (2020年9月3日 21時) (レス) id: 2fdfcf242b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年8月1日 11時
