first love ページ19
「今日はAの国の料理やよ」
所用で人間界に行っていたセンラが戻ってきた次の日、彼は嬉々として料理を作っていた。
「わぁ！炊き込みご飯だ！」
「向こうは春やからね。この間、人間界に行ったついでに山菜も取ってきてん」
「ほんとですか？嬉しい！」
彼女が下界で生きると決め、屋敷に戻ってきてからというもの、志麻とセンラとAの3人で囲んでいた食卓は、5人で揃って食べるようになった。
うらたは人間界で暮らしていたこともあるから、ある程度の料理は知っていたようだったが、坂田はAが好きだという甘いものしか知らない。はじめのうちは、当初の志麻と同じような反応を示したが、一度食べさせると、誰よりも食べるようになっていた。
「なあ、炊き込みご飯って？」
興味津々にAの隣でキッチンを覗き込む坂田に、
「炊き込みご飯っていうのは、ご飯を炊くときに、いろんな具を混ぜて味付けした混ぜご飯のことですよ！」
「そうなんや。めっちゃ美味そうやん」
「俺が作っとるんやから、当然やろ」
「うわ、センラのドヤ顔うざ」
「なんやとー！？」
キッチンでわいわい騒ぐ3人を見ながら、志麻はコーヒーを、うらたは緑茶を啜っていた。
「なんか、平和やなぁ」
「いいんじゃねえの？別に」
「ま、そうなんやけど。でもまさか、下界でこんな風に人間と暮らす日が来るなんて夢にも思わんかったわ」
「そうだな」
こちらに戻ってきてから、Aはよく笑うようになった。ずっと見たかった笑顔がそこにある。それがどれだけ幸福なことか、うらたは初めてそれを知った。
この屋敷に戻ってきてから変わったことは、他にもある。
「A、ちょっと」
「なんですか？」
志麻に呼ばれたAが、坂田とセンラにひと言つげてからこちらにきた。その手を取って、彼は自身の膝の上に彼女を座らせ、後ろから抱きしめた。
「………腹減ったから、充電」
「ど、どうぞ……」
坂田が以前言っていた、彼女に触れると腹が満たされるという事象は、本当らしい。Aにそれを打ち明けると、彼女は
「皆さんのお役に立てるなら」
と快諾してくれたのだ。しかし、許可してくれたのは手を繋ぐことと抱きしめることだけ。それ以上は恥ずかしいからダメだと言われているのだ。
それ以上のこともしてみたい。けれど、Aに嫌われたくもない。
そんな甘やかな葛藤の中で、結局は彼女に嫌われたくないというのが先に来る。
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ちょこ - とてもよかったです！その後話がもっと欲しい！ (2022年6月26日 23時) (
レス) @page23 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
伊織(プロフ) - 気づいたらこのお話に飲まれてました。とても素敵なお話をありがとうございました。他の作品も読みます！(*'▽'*) (2022年6月20日 21時) (レス) @page23 id: 020978a023 (このIDを非表示/違反報告)
ぷ(プロフ) - 読むたびに世界観に飲まれていきました。気付いたら最後まで読んでいました。素敵な世界を覗けてよかったです。ありがとうございました。 (2020年9月10日 20時) (レス) id: 5dd39aece4 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - 水無。さん» コメントありがとうございます。お楽しみいただけたのであれば何よりです。今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。 (2020年9月4日 23時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
水無。(プロフ) - ことで話にのめり込みやすかったですし、特に坂田さんの初々しいしい恋の表現の仕方には毎回きゅんきゅんさせられました。りひとさんの作る作品が大好きです。新作も前の作品も漁ってたくさん読みたいと思います。素晴らしい作品をありがとうございました！ (2020年9月3日 21時) (レス) id: 2fdfcf242b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：りひと
| 作成日時：2020年8月1日 11時
