. ページ22
動物園を出る頃には、すっかり空は赤く染っていた。
9月も後半になってくると、だんだんと日が短くなってきて、まだ17時だというのに夕焼け空になってしまっていた。
「楽しかったです。たまには、動物園もいいですね」
「だな。また、来ような。ここ、冬には期間限定で夜の時間も営業してて、イルミネーションやるらしいから」
「そうなんですか。きっと、綺麗なんでしょうね」
イルミネーションの電飾でキラキラする動物園をイメージする。
乗った電車は満員で、ぎゅうぎゅうと押しつぶされそうになりながら、私たちはなんとか最寄り駅にたどり着く。
電車から吐き出されるように押し出されて、よろめいたところを、うらたさんが支えてくれた。
「ほら、いくぞ」
うらたさんは私の手に指をからめると、人波に乗って歩き出した。
うらたさんが私の半歩前を歩いているのは、きっと言葉には出さない彼の優しさだ。
改札をぬけて、駅前の大通りを曲がると、途端に人気が少なくなる。
夕焼けはだんだんと夜の空に飲まれていって、遠い方の空では、夕焼けの赤と夜の紺色のまざったグラデーションが出来上がっていた。
いつもよりゆっくりと道を歩いているのは、私なのか、うらたさんなのか。
右側にいるうらたさんに意識を向けた。
バイト先の先輩。
最初の印象はそれだった。
バイト先が一緒で、シフトが被った時にたまたま最寄り駅が同じだと知って、帰ってみたらお向いさんで。
同じ大学だと知ったのも、いま思えばその時だった。
なんだかんだ、縁のある人。
優しくて、周りのことをよく見ていて、欲しい言葉をくれる人。
いつもそばに居てくれる人。
だんだんと、私の中のうらたさんの印象は、時間とともに変わっていった。
「なあ、A」
不意に、うらたさんが小さな声で私を呼んだ。
「なんですか？」
「もう、答えって決まってたりする？」
坂田さんとうらたさんのことだとすぐにわかった。
「……すみません。まだ、です」
「いや、それならいい」
「……いいって？」
まだ答えを出せていないことを、責められこそすれば、どうして「それならいい」なんて言うんだろう。
そんな話をしていたら、駅から徒歩10分の立地にある学生向けの安アパートには、あっという間に着いてしまった。
車一台通れるくらいの細い道路。
アパートの入口前で、うらたさんは私に向かって口を開いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 241人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
りひと(プロフ) - みかんさん» みかん様/ コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです♪今後ともよろしくお願いいたします！ (2020年1月1日 10時) (
レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - 完結おめでとうございます！りひとさんの作品大好きです。これからも応援しています、頑張ってください！ (2020年1月1日 9時) (レス) id: 6edfb9ce46 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - しぃさん» しぃ様/コメントありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです！今後とも応援のほどよろしくお願いいたします！またコメントお待ちしておりますね♪ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
りひと(プロフ) - まつりさん» まつり様/ありがとうございます！新年には新しい作品も投稿してまいりますので、今後ともよろしくお願いします♪またコメントお待ちしておりますね！ (2019年12月31日 20時) (レス) id: d056bbadb9 (このIDを非表示/違反報告)
しぃ(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても好きな作品なので2人分のルートを作ってくださり、とても嬉しかったです！他の作品の更新も楽しみにしています (2019年12月31日 19時) (レス) id: 42c92e6201 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：りひと
| 作成日時：2019年12月24日 11時
