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僕は彼を見つめた。彼の片目は何か紋章のようなものが赤い瞳に薄桃色で映った。が、それは彼が無表情から笑顔を戻すと同時に、消えた。
｢なにがいい？嫌いな塾を僕に押し付ける？それとも授業？｣
｢そんな事はしないよ…！｣
｢…そんなの言ってられるの、いつまでだろうね｣
彼はぼそっと言葉を落とした。僕は背筋に何かが通った感覚を覚えて彼から手を離そうとした。が、その手はグッと強く掴まれた。
やっぱり敵対心が湧く。僕は彼を少し睨んだ。睨むと彼は嬉しそうに笑う…頭湧いてるのか。
｢…ほんとに僕ですか｣
｢勿論！まだ疑ってる？｣
｢…誕生日は？｣
｢10月18日｣
｢血液型｣
｢AB型｣
｢こ、この前のテストの国語の点数…！｣
｢97｣
｢なんで知ってんの…｣
｢君だから。僕が。｣
開いた口が塞がらない。本当に僕だ。どういう原理なのだろうか。…まだ、幻覚かもしれないって心の隅のどこかで思っていて、もう一度触れる気にはなれなかった。
身長、住所、親の名前、友人の独特なあだ名…僕でしか分からないことは大抵聞いてみたが、彼は僕のようにスラスラと答えた。……実質、僕なのだが。
｢そんなに信用ないならさ、お試ししてみる？｣
｢へ、何を…｣
｢5時間目、サボってみてよ｣
｢むっ、無理無理無理！｣
彼は僕から手を離し、天月の弁当を手に取り僕と同じように笑った。僕だった。本当に、僕だった。
つむじから足の先まで、全部、鏡で見た僕だ。
｢本当に証明してみせるからさ、その後にまたお話しようよ｣
彼は嬉しそうに笑って背中だけを僕に見せて屋上から姿を消した。そのすぐあとに、チャイムが響き渡った。弁当を投げ捨ててフェンスに指を引っ掛けて、僕のクラスの窓を見た。
僕の席は窓側の端。風が吹いてカーテンがなびく。そこに現れたのはシャーペンを顎に置いて、黒板を真っ直ぐみる『真冬』だった。
僕は自分の頬を触った。…僕はここにいる、よね？
｢…すっげ｣
僕はそう呟いた。
サァッと風が吹いて、彼は僕をチラリと見た。僕と目が合って、僕の心臓はばくんと跳ねた。彼の目は、また紋章のようなものが浮き出ていたが、カーテンによって僕の姿は消えた。
足から根でも生えたかのように動かなくなり、次に我に返ったのは、放課後の屋上で彼に話しかけられた時のことだった。
｢…ただいま｣
この時点で、悪夢は幕を開けていたのだ。
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作者名：しょうゆのすけ | 作成日時：2019年2月26日 15時
