食べ合わないと出られない部屋 ページ33
「……」
乾燥してしょぼしょぼする瞳をめいいっぱい使って白い部屋の白い机に置いてあるお菓子を見つめる。この空間に何年も居るような気分になり、なんのお菓子だったか、名前が思い出せない。スティック状で、4対1ぐらいの割合でチョコが塗ってある。
「ま、まふ…起きて、ねぇ」
「…ん、ぅ」
呼びかけると眠たそうに目を擦って真っ赤な瞳が瞼から顔を出す。生きてる。動いてる。
こんなに嫌いだった奴が、目を覚ましてくれて嬉しいと思ったのは初めてで。…この空間に迷い込んでから喜怒哀楽が土から芽を出すように溢れてしまっている。
起き上がると柔らかな笑みを浮かべて私を抱きしめた。私、相当不安な顔していたのか、まふはとんとんと背中をさすって優しい声で耳を撫でるようにこう言った。
「僕はいるよ。大丈夫だから…ね?」
また、浦田のことを思い出して視界が滲む。だけど、温もりに安心する。とくとくと優しく血が血管を流れる。
きっとこれも彼にとっては好都合。逃げる私を捕まえて、誘拐事件を作り、仲間を装い抱きしめる。…もう知ってしまったこと。意図的に行った《作ったシナリオ》
ハリネズミに抱きつくような感覚。暖かくて優しくて何故か心地よいのに、知ってしまった事実が、深く酷く、突き刺さる。
【食べ合わないと出られない部屋】
【お互いの唇に触れ、最後まで食べ切ること。】
【2本成功させなさい。1人は目を瞑ったまま、2本連続で成功させること。】
「…あぁ、ポッキーゲームか」
まふもこんな天使のような声としてようと、男性だ。ぽつりと無意識に零すその独り言は、低くて一瞬ドキッとしてしまう。
彼は私から手を離して立ち上がりポッキーを手に取る。そして箱から袋を取り出す。
「2本ぐらい簡単でしょ。ねっ、ねね、早くやろ?」
「…机の上に2本だけ置いておけばいいのに…」
まふは嬉しそうに私の前にしゃがみ込み、袋を開けて口先にポッキーを咥えた。そして目を瞑り、『ん、』と言ってポッキーを突き出す。
……まず1本目。
何も事は起きず、サクサクと進む。そのまま2人の唇はピトッと当たり、まふがかじりきる。
「次は意地悪しちゃおっかなぁ…」
2本目を取り出して目を瞑ったままクスッと笑うまふ。遊んでいる場合じゃない。私は仕方なく口にポッキーを咥えた。
その瞬間、後ろから誰かに抱きしめられた。思わず悲鳴をあげ、同時にポッキーが白い床に落ちた。
*
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しらす - は?猫耳さかたんとか天使かよ (2019年4月23日 13時) (レス) id: f34e486c2f (このIDを非表示/違反報告)
しょうゆのすけ(プロフ) - Blackgirlさん» コメントありがとうございます。続編もご期待に添えるよう頑張らせていただきます (2019年2月24日 15時) (レス) id: d6c32b13a2 (このIDを非表示/違反報告)
しょうゆのすけ(プロフ) - 歩さん» コメントありがとうございます。続編もよろしくお願いします…! (2019年2月24日 15時) (レス) id: d6c32b13a2 (このIDを非表示/違反報告)
Blackgirl(プロフ) - みんな一途で可愛い。続編期待してるで。 (2019年2月22日 23時) (レス) id: 61c7222caa (このIDを非表示/違反報告)
歩 - ついに続編ですか!!おめでとうございます!黒幕も出てきた(?)事だし、これからの展開が更に楽しみです!続編もふぁいとですっ! (2019年2月22日 20時) (レス) id: 13020661c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しょうゆのすけ | 作成日時:2019年1月21日 16時