君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、馴染む ページ7

気付けばあたしは炎天下の中、ストップウォッチを持ってグラウンドに立っていた。まんまと福尾くんにしてやられたのだ。

「タイム、ここに書いていってね〜」

他のマネージャーにペンと記録表を渡されて、大人しく彼等のタイムを記載する。バイト先には渋られはしたものの、なんとか休みはもらえた。ペンをくるりと指で回したあたしは、グラウンドを颯爽と駆け抜ける部員達を眺める。そこには福尾くんと先程のてつやくんも居て、脇目もふらずただ前だけを見て疾走してる彼等の姿を見るのはいささか悪くないなぁと思った。

「部活中ってかっこ良く見えるマジックかかってるよね」

声を掛けてきた先輩マネージャーに頷く。

「珍しいね。この時期に入部って」

「あたしもそう思います。バイトしてるし、そんなに来れないのに」

「え？じゃあなんで？中学生の時に陸上部だったとか？」

「いや、陸上部では無いです」

「あ、好きな子がいるんだ」

「……好きな人っていうか」

「でもよくいるんだよ。ここの陸上部強いし、本気で部活してる姿見て憧れで入部してくる子」

それって恥を忍んで、とか。仮彼氏の契約が、とか。訳ありの謎理由を引き連れているあたしも、もれなくその部類に含まれるのだろうか。

「まぁ、どんなキッカケでもいいよ。部に向き合って続けてくれるんなら嬉しいし」

遠くを見ながら呟く彼女は自分とは違うと考える。入ったからには、理由はなんであれ真正面から向き合わないと失礼かもしれない。
それに先輩の言う通り、夢中で部活に取り組む部員の真剣な瞳や、鍛えられて引き締まった身体は女の子達が彼等を好きになる大きな一因であろう。走り終えた後に息を切らし、汗粒が喉仏を滑り落ちるところとか、シャツで雑に汗を拭うところとか、つい目で追ってしまう。

「マネージャー、ゴールする数メートル前に俺にタイム知らせてくれたら助かる」

走る前に、そう言いにきたのはてつやくんだった。目を合わせようとしない彼を見上げ、あたしは頷く。
彼の事はさっき初めて知った訳だが、どうやら福尾くんとは同じクラスらしく、時たま親しげにじゃれ合ってる様子を見る分には仲も良いように思えた。そんな彼は福尾くんと違って無駄にスマイル振りまいたりしないし、愛想もいいって訳じゃ無い。だからって極端に無愛想という訳でもなく、心を許した友達とは楽しそうにしている感じだった。

「On your marks！」

数百メートル先からスタートの合図が聞こえる。分厚い雲が空を流れるのを目で追ったあたしは、ストップウォッチのボタンに手をかけた。

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