君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、揺らぐ ページ8

「じゃあ、明日もよろしく」

先輩にそう言われて、あたしは浅く頷いた。門へ向かう先輩達が手を振るので小さく頭を下げる。

「Aちゃん、一緒に帰ろう」

福尾くんに話しかけられて、あたしは激しく首を左右に振った。すると彼は嬉しそうに笑った。いつもこの人は何故かあたしと正反対の顔をする。

「なんか怒ってる。俺が無理に入部させたから？」

「分かってるのに聞いちゃうのね」

「でも楽しそうだったでしょ？」

満面の笑みをした彼に顔を覗き込まれて、福尾くん達がグラウンドを気持ち良さそうに駆け抜ける姿を思い出す。うつむいたあたしは、そればかりは否定出来なかった。

「ま、とりあえず一緒に帰ろう。てつやも居るし」

そう言ってあたしの手を取った福尾くんだが、彼は毎度のこと何を気にする訳でも無く簡単に触れてくるから、その度にビックリする。自分だけが異様に意識してるみたいで嫌なのだ。手を握った福尾くんを見て、てつやくんが「付き合ってるの？」と尋ねてくる。

「まぁね」

肯定した福尾くんは、あたしとの約束をきちんと守って真実を話さなかった。それを聞いた彼は慣れた様子で、そうなんだと気にする素振りもない。

「…………」

あたしはチラリと彼等に目をやった。今日見た限り、二人はあたしが思っているよりも恐らく仲が良い。そんな関係性の人に嘘を付くのは、きっと心が気持ち悪いだろうなぁとあたしは思う。あたしが息するみたいに吐いてしまった見栄張りの嘘とは、また重みが違う。そう感じたあたしは福尾くんの手を軽く払い退けて言った。

「あたし達、付き合ってないよ」

途端に福尾くんが驚いた顔であたしを見る。

「えっ、言っちゃうの？」

「仲良さそうだし、てつやくん言わなさそうだから」

「まぁ確かに言わないだろうけど」

「もういいよ。あたしは自分のクラスの子達に自慢したかっただけだし」

嘘はついてない。言ってしまえば福尾くんの事好きじゃ無いし、そもそも名前しか知らなかった。こんなあたしのうぬぼれに巻き込まれ、嫌味っぽくも協力してくれている彼。女の子達の黄色い声に囲まれても思いあがったりしないし、友達も普通に居て、部活に本気でぶつかっていく。彼のそんな姿を見てあたしは自分が酷く情けなくなった。

「なんだ、もうやめるの？」

不意に聞こえたその台詞。福尾くんの方を見ると彼はまたもや意地悪そうに笑ってて、あたしは思わず視線を逸らしそうになった。

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