君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、絡まれる ページ15

「りょう先輩の彼女って、ほんとですか」

教室に入ろうとした時、扉の近くに立っていた小柄な女生徒が突然話しかけてきた。綺麗に整えられたショートの髪を揺らした彼女は、上靴をキュッと鳴らしてこちらに近寄ってくる。靴の色はあたし達の一つ下の学年で、部活に所属していなかったあたしには交わる事のない学年だ。

「陸上部のマネージャーなんですよね」

か細い小さな身体から出るのは、なんとも強い口調。昨日入ったばかりなのに、そんな情報一体どこからと思いつつもあたしは頭を縦に振る。すると後輩であるその生徒はムッとした顔をしてから、薄い唇を不機嫌そうに尖らせた。

「嘘ですよね」

唐突過ぎる彼女の発言に思わず心臓が口から吐き出そうになる。

「なにこの子」

鼓動を激しく鳴らすあたしが言葉を発する前に、周りに居た友達が険しい顔でそう呟いた。だけども彼女は折れない。曲がりなりにも年上の先輩である彼女達になど目もくれず、あたしだけを見つめたまま続ける。

「彼女とか嘘ですよ。だって私ずっと連絡取ってたし、一緒に出かけたりもしてたんです」

「…そ、そうなの」

「なのに、またどこか連れてってくださいって言ったら、彼女出来たからって急にりょう先輩が」

「…………」

何とも言えない告白に返す言葉など無く黙り込む。そんなあたしを押し退けた友人達が後輩に食ってかかった。

「わざわざそんなこと言いにここまで来たの？」

「先輩達に関係無いですよね。あたしはA先輩だけに聞いてるんです」

「本人が彼女だって言ってんじゃん」

「関係ない人は黙っててください」

何故かあたしよりも怒る友達と、それ以上に気の強い一年生の女の子が目の前でバチバチに火花を散らす。こんなに自分の意思をハッキリ言えるって凄いなぁとか他人事のように感心してると、怒りのこもった瞳がこちらを見た。

「証拠見せてください」

「え？」

「彼女だって証拠、見せて欲しいです」

「証拠って……」

まさかの台詞に度肝を抜かれる。"恋人同士である証拠"なんて、そんなものこの世にあるのだろうか。

「馬鹿なの？付き合ってるってお互いが言ってることが証拠でしょ」

「そんなの証拠にならない。りょう先輩が言わされてるだけかもしれないです」

「こわ、なに言ってんの？」

顔を歪めた友人がこの子ヤバイよ、ほっときなよと耳打ちされた。困惑するあたしを睨むように見た彼女は、強い眼差しをしたまま口を開く。

「りょう先輩と、みんなの前でキスしてください」

その瞬間、こんなの全部嘘なんだよって、今すぐにでも言いたくなった。

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