君の犬になってもいいよ【東海オンエア】

犬、２日目 ページ12

「おはよう、A」

朝の通学路で、その言葉と共に肩をトンと叩かれた。振り返ったあたしの視界にきちんと整列した歯がきらりと輝く。いつも彼と話すと、身長的にも白い歯に目がいきやすい。

「あ、おはよう」

当たり前のように話しかけてきたりょうに、あたしは緊張を引きずる笑顔になったと思う。だが彼は気にする素振りも見せずに「最寄駅一緒じゃん」と朝からニコニコ。

「てつやくんと帰った時同じって知ったんだよ」

「らしいね。てつやから聞いた」

笑顔で頷く彼は昨日別れた後、そのままアルバイトに行っていたらしい。そんな彼の隣には昨日も居たてつやくんと、あとは同じ陸上部の"ゆめまる"。そして髪の毛がボサボサの、みんなには"しばゆー"と呼ばれているちょっと奇怪な人があたしの横に並ぶ。

「俺のバイト先この近くにあるんだよ」

「そうなんだ」

「全然興味無さそう」

あたし的にはそんな事もないけど、すごく興味津々みたいに振る舞うのも変だと思った結果この反応を選んだ。あたしがいちいち、彼への振る舞いまで意識し出した事などいざ知らず、りょうは会話を続ける。

「てかてつやと二人で帰って話すことあった？」

「二人でって…てつやくんと二人きりにした人が言う事じゃないよ」

「すごい人見知りだから喋ってないでしょ」

「慣れたら話せるよ、多分」

別に彼を庇う必要も無いけど、印象は悪くないという事だけ伝えたかった。途端に彼が口角を上げたので、頭ひとつ分ぐらい高い彼を見上げてあたしは尋ねる。

「なんで笑うの」

「いや、てつやくんって呼んでるのが聞き慣れないから面白くて」

「え？」

「てつやでいいやん」

突然の呼び捨て推しに戸惑い、チラリと後ろを歩くてつやくんの方へ視線をやった。だけど彼は昨日と同じくあたしとは目を合わさずどこか違うところを見てる。

「いや…まだ仲良くないし」

「じゃあ逆に仲良いってどこからなの？」

「……………」

彼の質問にあたしは至極困る。そう言われましても。

「仲良くなりたいと思ってる人は呼び方に拘らないよ」

「…うーん」

「俺に彼氏の役してって頼んで来た時のテンションどこ行ったの？」

「ねぇ、内緒だって…！」

なんで朝からこんなに元気なんだろうと思いつつも、普通に秘密事を口から漏らすりょうの肩を掴んで阻止する。爪先立ちで触れた彼の大きな肩。

「ごめんごめん」

あたしはふっと微笑んだ彼から手を離した。手指に骨張った肩の感触が残留する。

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