30.そうはいかない ページ30
気軽に、それもまるで挨拶みたく女の子に可愛いとか言っちゃう男、あたしは嫌いだ。本気にするだけ無駄だし、そんな男の言う事なんてどれも信用ならないなって思う。あたしで何人目の可愛い子ですかと皮肉を言えば「"可愛い"なんて消耗品じゃん?」と彼は鼻で笑った。心の奥底から出してますみたいなその笑顔、拳でぶん殴ってやりたい。
「疲れた。俺も風呂入ってくる」
気が抜けたように目を細めて背伸びをしたジン君があくび混じりに立ち上がった。リビングを出ようとした彼に目を丸くしたあたしは咄嗟に呼び止める。
「…風呂はいいけど、その前にあたしは?どうすればいいんですか」
「もう好きにして」
「は?」
淡々とした彼の台詞が頭の中をループする。今までも何度か腹の立つ思いをしてきたけど、ダントツで今のが一番頭にきたと思う。聞き捨てならないとはまさにこの事で。
「好きにして、って言った?」
開いた口がふさがらず、彼の言葉をそのまま繰り返した。するとジン君は両手を軽く上にあげて、外国人が呆れたみたいな仕草をしてみせる。
「もう我儘だし手に負えないし、俺も濡れたし風呂入りたいの」
「待って…何言ってんの。怖いんだけど、だって」
「あ、一緒に入りたかったの?」
「そうじゃなくて」
「だよね」
見事なまでに冷めた顔をしたジン君。苛立ちを抑えつつ"あのさぁ"と言いかけたあたしを、華麗に無視した彼はスタスタとリビングを出て行った。去っていく広い背中を茫然と見つめながら、あたしは誰に言う訳も無く呟く。
「信じらんない………」
途端に、あたしの中で何かが沸々と音を立てて湧き出してきた。このまま彼の言う通り好きにして家を出て行けば良いんだろうけど、それじゃあどうしたって負けた気しかしない。
彼は他人を自分の波に巻き込み嘲笑って、今まではそうやって縦横無尽に生きていけたのかもしれない。だけど、今回だけはそうはいかない、世界の中心が自分では無いと言う事実をあたしが篤と分からせてやる。あたしは実際家が無くて困っているし、彼は何故かここに住めと言う。今はどう思っているのか分かりやしないけど、もうこなりゃヤケだ。
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匿名(プロフ) - 湯豆腐さん» とても嬉しいコメントありがとうございます^ ^ なかなか試行錯誤しておりますが、私なりの彼等を楽しんで頂ければと思います。お話いっぱいになり移行しましたので、次も末永く応援頂けると嬉しいです! (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 花恋さん» お返事大変遅くなりました。時間が空きながらの更新ですが、それでも楽しみにしてくれる方々にとても感謝しております。またお話増えましたので、お時間ある時にでもちらりと覗いてみて下さい^ ^ お待ちしてます。 (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - なななさん» お返事大変遅くなり申し訳ないです。応援ありがとうございます!時間が出来また更新し始めたので、これからも気長に見守って頂ければ嬉しく思います^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
匿名(プロフ) - 夜星さん» お返事大変遅くなってしまいました。最近時間が出来たのでゆるゆると更新しております。暇な時にでも覗きに来ていただければ幸いです^ ^ (2018年4月26日 21時) (レス) id: 5ddf379a2d (このIDを非表示/違反報告)
湯豆腐(プロフ) - 匿名さんがかくジンくんとマホトくんが一番好きです。匿名さんも大好きです。これからも応援してます! (2018年4月25日 19時) (レス) id: 65ae9a78b1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:匿名 | 作成日時:2017年7月10日 7時