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私はボロボロになる兄の体にしがみ付いた。
兄は私を優しく抱きしめると、私の頭を優しく撫でる。
足元に転がる兄の首も、みるみるうちに崩れて行く。
「兄さん、待って。逝かないで」
お願い。
逝かないで。
ねぇ、兄さん。
兄の胸元に耳を押し付けるが、兄の心臓の音は聞こえない。
床にある兄の顔は、悲しそうに泣いていた。
「泣いて。A、泣きなさい。私みたいになってはいけない」
普通、こう言う時は「笑いなさい」と言うんじゃないの?
私が見てきた作品は、そうだった。
泣き顔なんて見たくない、と。笑っている顔が見たいと言うのだ。
喉の奥が痛い。
鼻の奥がツンとする。
目の奥が熱い。
それなのに、涙は一滴も出なかった。
「……ごめんなさい……」
「ダメだよ、泣かないと」
兄の両手が崩れて、私が支えていないと倒れてしまいそうだった。
「……父さん、母さん___」
兄の顔も崩れてしまった。
兄の声も途中で途切れてしまった。
体が完全に消え去り、私の腕には、兄の着物しか残らなかった。
「……」
呆然と、手元の着物を見つめる。
血濡れた着物は、冷たかった。
「……どこも怪我はしていないか?」
女隊員が声をかけてきた。
私は顔を上げる。
「あ、はい、大丈夫です」
いつもの癖で即答し、笑顔を貼り付ける。
女隊員は私を見て、悲痛そうに表情を歪めた。
すぐに隠の人たちが家に駆けつけた。
私は隠から説明を聞いたが、右から左に聞き流していたので、話の内容は全く覚えてない。
朝ご飯の時間になる頃には、家の周りに野次馬が集まり、報せを聞いて駆けつけた祖母が、血相を変えて家に上がり込んできた。
そして、家の有り様と死体を見て、喚き散らした。
祖母は、隠の人の話に相槌を打つ私の髪を掴み、引き摺り、家の敷地外へ蹴飛ばしたのだ。
私は訳が解らず、ゴロゴロと地面を二回程転がった。
野次馬が私を綺麗に避けてくれたおかげで、誰かにぶつかってしまうという事は無かった。
「私は反対した!お前なんて必要ないと!!養子なんて要らない!!疫病神!お前が!お前さえいなければ!!出ていけ!!」
人の目なんか気にせず、祖母は私を蹴って、蹴って、蹴りまくる。
「もう二度と、うちの門をくぐるんじゃないよ……」
ゼェゼェと肩で息をする祖母は、泣きながら家へ入って行った。
私は寝転びながら空を見上げた。
今にも雨が降りそうな、どんよりとした天気である。
……これからどうしよう……?
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作者名:そうや | 作成日時:2020年6月7日 21時