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兄は、フーフーッと肩で息をしていた。
「兄さん……?」
兄の目は血走っている。
口の端からは、涎を垂らしていた。
明らかに様子がおかしい。
「誰だ!!」
兄が叫んだ。
私はビクッと肩が跳ねる。
兄が睨んでいる方向を見ると、先ほどとは別の鬼殺隊員が刀を構えていた。
兄は私を守る様に自分の背中に私を隠す。
女の隊員は僅かに目を見開く。
「その子を離してくれ」
「離さない。ずっと一緒に居るんだ」
兄は涙をぬぐい、右手で口と鼻を覆う。
「助けて下さい。お願いします。話をしましょう」
「話?」
隊員は眉を寄せた。
兄は左手で私の腕を掴む。
「私は、鬼殺隊に入りたい」
「それは出来ない。鬼殺隊は鬼を殺す組織だ。お前の入隊を許可してしまえば、鬼殺隊員の反感を買う」
「私は、私を鬼から助けてくれた炎の剣士の様に、人を守りたいんです」
「その守りたい人を食べる鬼になっているのに?」
「私は人を食べていない!」
「見ればわかる。君は人を食べていない。でも、今にもそこにある死体と、後ろにいる子供を食べそうだ」
兄の唾液が、床に落ちる。
隊員の言う通り、兄は今すぐにでも人を食べそうだ。
その時、一番に犠牲になるのは私だろう。
「食べな__」
私の腕を掴んでいた兄の手が、切り離された。
兄は、唾液で濡れた方の手で私を抱き寄せ、死体の転がっている床に足をつけた。
死体を踏まない様に、足元に注意している。
足袋に血が滲み、兄は苦しそうに表情を歪ませた。
「A……済まないね。汚い手で触ってしまった」
「気になさらず」
私は笑顔で返した。
「おい、待て!!」
女隊員の制止の声が聞こえたかと思ったら、兄が地面に倒れていた。
顔面を血溜まりに押さえつける様に、後頭部から踏まれている。
兄は踠いている。
兄の頭を踏んでいるソイツは、先程、兄の顔を斬った隊員だった。
「待つ?何をだ」
「その鬼は、俺達に協力しようとしている。鬼舞辻についての情報を得られるかもしれない」
「鬼は人間の敵だ。ほら、見てみろ。血を飲んだだけでこうも変わる」
兄から足を退かす隊員。
血みどろの兄は、咽ながらもゆっくり立ち上がった。
血を飲んだ事によって、回復力が上がったのだろう。
兄は腕を再生させると、私に近付いた。
走って。爪を立てて。
しかし、兄が私に触れることはなかった。
兄の頭を踏んでた隊員が、兄の首を斬ったのだ。
崩れ行く兄の体が、それでも私の元へ歩いてくる。
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作者名:そうや | 作成日時:2020年6月7日 21時