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いつの間にか、机に突っ伏していて寝ていたらしい。
部屋の外が騒がしくて、目が覚めてしまった。
時計を見れば、午前三時半だ。
夜中と早朝の間くらいの中途半端な時間である。
明かりを付けっぱなしだったので、お手伝いさんに怒られるかもしれない。
明かりを消して寝ようとしたが、部屋の外が異常に騒がしい。
喧嘩でもおっぱじめたのだろうか？
やめて欲しい。切実に。
寝る前に厠に行こうと、部屋から出て、廊下を壁伝いに歩く。
あ、やべっ……
簪持ったままだ。
……まぁ、良いや＿＿＿
「A」
兄さんの声が真横で聞こえた。
一歩後退り、隣を見れば、兄が立っていた。
さっきまで騒がしかったのに、驚くほど静かだ。
今まで明るい部屋にいたので、薄暗い廊下にまだ目が慣れていない。
声がするまで、兄の存在に気付けなかった。
「ただいま」
兄が私の頰に触れる。
兄の手は濡れていた。
「おかえりなさい……雨が降っていたんですか？」
「綺麗な星空が広がっているよ」
目が暗さに慣れてきたのだろう。
兄の姿がぼんやりとだが見え始めた。
「兄さん、怪我をしてるんですか？」
「怪我はね、もう塞がったよ」
じゃあ、何でそんなに血濡れているのだろうか？
「Aはいい子だね。ずっと私のそばに居てね。私はAが好きだよ」
「ありがとうございます」
兄は優しい笑顔で私の目を見つめる。
私も兄は好きだ。
尊敬している。
「A、その簪はどうしたの？」
兄がかんざしを持っている方の手を掴んだ。
「婚約者の、あの人から貰いました」
「……そう」
兄の爪が、昨日より明らかに長い。
気がする、っていう程度では無い。
「兄さん＿＿＿」
「A、この家を出ようか」
は？？？
兄の唐突すぎる提案に、私は空いた口が塞がらない。
そんな私の顎に触れた兄は、カクンと指で閉じさせる。
「私にはね、夢があるんだ。剣士になる夢がね。Aがこの町に来るずっと前に、助けてくれた剣士が居てね……」
兄は目を閉じて、楽しそうに話した。
「炎を纏った剣術を使って、私を守ってくれた」
和風ファンタジーの世界なのか、この世界。
洋風ファンタジーの転生物語は携帯小説でよく見るが、和風ファンタジーはあまり見ない。
「私はあの様な剣士になりたかった。今からでもね、その夢が叶えられるかもしれないと思うと、楽しみで楽しみで仕方がないんだ」
兄は目を開いた。
その目は、ギラギラとしている。
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作者名：そうや | 作成日時：2020年6月7日 21時
