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お寺に週一ペースで手紙を書いて居るが、一度も返事が来ない。
何故だ?
紙が無いってか?
モチベーションがダダ下がりだが、家族やお手伝いさん達は厳しくとも優しいので、今はまだ何とかなっている。
テーブルマナーも言葉遣いも歩き方も、毎日気を付けて生活している。
所作がある程度ものになってきた頃、婚約者を紹介された。
急展開すぎて、私は宇宙を見つめる猫の様な表情になってたと思う。
保護者同伴だったが、数十分経過した後、二人で話しなさいと言われた。
親の腕にしがみつく訳にもいかない。
よりにもよって、私はいつもの癖で頷いてしまったのだ。
私はバカである。
全く学習しねぇな!!
保護者達は別の部屋へ移動した。
少女漫画とかドラマのお見合いシーンでよくある「あとは若い者同士で……」っていうやつだ!
知ってるぞ!
私は前世で独身だったし、お見合いをした事もないけれど!!
今すぐお寺に戻りたい衝動を抑えこむ。
母に「常に笑顔でいなさい」と叱られたので、笑顔を貼り付け、婚約者を見る。
婚約者は頬を染めながら、私に色々な事を話してくれた。
自分の趣味や、今町で流行っている話題の洋菓子や、最近読んだ本の内容等……
私はそれに相槌をし、話を聞いた。
この人は私を箱入り娘だと思ったらしい。
此処に来てからは、一度も家から出てなかったので、この町については全く知らない。
「では次に会った時は、町に出かけましょう」
「あ、はい」
デートの約束をされてしまった。
婚約者は嬉しそうに笑う。
数日後、私は婚約者と町へ出かけた。
流石にお手伝いさんと言う名の護衛がついたが。
子供だけじゃあ危ないという親心からだろう。
反物屋や甘味処や万屋等、いろんな所に連れていかれた。
「この簪、紅玉ちゃんがつけてたのに似てるなぁ」とか、
「この反物、カルトに似合いそうだなぁ」とか、オタク特有の感性で見ていた。
「この簪が欲しいんですか?」
「いいえ、別に」
可愛いと欲しいは別物である。
日が傾き始め、家に帰ることになった。
婚約者は家まで送ってくれた。
紳士である。
デートは、それなりに楽しかった。
デートというか、散策に近かった気がするが。
私は将来、あの人と結婚しなきゃいけないのかぁ……
沙代と勾玉野郎の顔がチラつく。
あの二人、この事を聞いたら拗ねそうだなぁ。
でも、先生は泣きながら喜んでくれるだろう。
部屋に戻った私は、早速手紙を書いた。
しかし、返事は来なかった。
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作者名:そうや | 作成日時:2020年6月7日 21時