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医者を呼んだ。
勾玉野郎は、薬を飲んで寝たらすぐに風邪を治した。
「お前、何で髪切ったんだよ」
洗濯物を畳んでいると、勾玉野郎が手伝ってくれた。
そして、ポツリと呟く様に聞いてきた。
私は、医者を呼ぶ金を貯める為に、町の困っている人の手伝いをしたり、髪を売ったりした。
今の私は、男の様に短髪だ。
ベリーショートだ。
パッツンじゃない。
パッツンだったら、おじゃる丸みたいになってしまう。
ただでさえ麻呂眉なのに……
いや、麻呂眉も可愛いけど。
私は、やんごとなきみやびなお子さまを目指している訳では無い。
「お金が無かったから」
私がそう説明すると、勾玉野郎は下唇をキュッと噛み締めた。
え、何その表情?
そんな表情もできるの?
これで性格が良かったら、私は今頃コイツの頭を撫でくりまわしてたのに!!
「……そうかよ」
「私は顔がいいから短髪も似合うんだよ」
自慢げにそう言ってみせれば、勾玉野郎は心底うんざりした表情に変わった。
お前はそういう表情の方が似合ってるよ。
私のお金で医者を呼んだ事を、先生から聞いたのだろう。
それで、コイツは柄にもなく自分を責めているのだろうか?
勾玉野郎が手伝ってくれたので、洗濯物がすぐに片付いた。
「髪なんてすぐに伸びるよ。内臓を売った訳じゃ無いし、気にしなくていい」
私の体には、走って転けて出来た擦り傷とか軽い切り傷くらいだ。
縫う程大きな傷はできてない。
「お前の事なんか気にしてねぇ」
「そっか」
勾玉野郎は手持ち無沙汰になったのか、少し落ち着かない様子だ。
私はそんな勾玉野郎を放って、本を読み始める。
髪を売っても金が足りなかったら、この本も売るつもりだったけど……
「え、何?」
「面白いのか?それ」
勾玉野郎が私の隣に座り、本を指さした。
「何回も読み返している割には……」
本の内容に飽きてはいるけど。
「……読む?」
「お前が読めよ」
読みたくはないらしい。
「あっそう」
私は素っ気なく返事をすると、本に視線を落とした。
頁をめくる音だけが聞こえる。
「おい」
苛立ちを含んだ勾玉野郎の声が隣から聞こえた。
「何」
一応返事をする。
私が頁を見たままなので、勾玉野郎は舌打ちをした。
舌打ちしまくるなぁ。
そのうち時計になるんじゃねぇの?
「これ、何て読むんだ?」
勾玉野郎が文字を指さした。
「ん?“好き”」
「……!?」
勾玉野郎が硬直した。
おい、顔真っ赤だぞ。
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作者名:そうや | 作成日時:2020年6月7日 21時