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小一時間程経ったのだろうか。
勾玉野郎が魘され始めた。
何度も寝返りをうち、浅い息を繰り返している。
「……」
私は本に栞を挟み、勾玉野郎に近づく。
「勾玉野郎、大丈夫？」
小声で声をかけてみる。
当たり前だが、反応は返ってこない。
勾玉野郎の顔を覗き込む。
苦しそうに表情を歪めていた。
汗をかいているし、顔色も良くない。
勾玉野郎の顔に手をやれば、明らかに熱かった。
「バカは風邪をひかないっていうのに……」
私は深く息を吐くと、先生の所へ向かった。
「先生」
「どうした？」
先生は、子供達に古い和紙をあげていた。
折り紙の代わりだろう。
それ、火を起こす時に使うやつ……
自然と眉間にシワが寄るが、すぐに思考を切り替える。
「……獪岳が、発熱しました」
「なんと……」
先生は立ち上がると、早足で寝室へと向かった。
私は先生の後をついて行く。
先生は勾玉野郎を抱えた。
「今日は、獪岳は別の部屋で寝させる。A、布団を運んでくれないか？」
「あ、はい」
勾玉野郎がさっきまで使っていた布団を畳んで、両手で持つ。
湿気を吸っているから、布団が数日前より重くなっている気がする。
先生の後をついて行く。
着いたのは先生の部屋だった。
先生の部屋に布団を敷く。
先生は勾玉野郎をその布団に寝かせた。
「水を汲んでくる。A、少しの間獪岳の様子を看ていてくれ」
「はい」
先生が部屋から出て行った。
勾玉野郎は、苦しそうに寝ている。
頭痛が酷いのだろう。
寝る前、こめかみを押さえてたし。
汗で額にへばりついた勾玉野郎の前髪をはらう。
「っ……」
あ、ヤベッ……
勾玉野郎が起きた。
慌てて手を離す。
「ごめん、わざとじゃない」
「……」
勾玉野郎はうっすらと開かれた目で私を見ている。
いつもウザイ奴がこうもおとなしいと、不気味でしょうがない＿＿＿
「そこから動いたら蹴飛ばす」
勾玉野郎はそう言うと、再び瞼を閉じた。
……いつも通りだった。
熱で魘されようが、コイツは私が嫌いだと細胞レベルまで体に刻まれているのだろう。
感心した。
座り直そうと立ち上がったら、勾玉野郎が私の手首を握った。
「っ」
人間、驚くと声すら出なくなるのか。
心臓が止まるかと思った。
お前、起きてんのかよ！！
「動くな」
人質をとった強盗みたいな事言ってる！
人質に取られたことも、強盗と出くわしたことも無いけど！
フィクションで、高確率で聞く台詞だ。
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作者名：そうや | 作成日時：2020年6月7日 21時
