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先生からの無言の圧力に耐えきれなくなったのか、勾玉野郎はそっぽを向いた。
そして大きな舌打ちをした後、ポツリと呟いた。
「……A……」
あっ……
私の名前、知ってるんだ。
意外だ。
名前を覚える気すら無いものだと思ってた。
「っ〜、これでいいだろ！？」
耳まで真っ赤にした勾玉野郎が睨んでくる。
私の名前を呼んだだけで、そんな反応するとは思わなかった。
「ごめん、聞こえなかった」
「お前巫山戯んのも大概にしろよ」
勾玉野郎がスンッと真顔になって、早口でそう言った。
滑舌ヤベェ。
「謝ったじゃん！聞こえなかったんだってば！」
私は勾玉野郎が不快になるように、顔を覗き込んだ。
下から煽るように見るのがポイントだ。
勾玉野郎は私の相手をするのが面倒臭くなったのか、私を退かす様に、私の肩を押す。
「お前の耳が悪いだけだろ」
「お前の声が小さいだけで、私の聴力に異常がある訳ではない」
「俺は名前呼んだのにお前は呼ばねぇのかよ！」
「だって名前教えてくれなかったじゃん！」
私は根に持つタイプの女である。
勾玉野郎と会ってから、今までコイツにされた事は全て覚えている。
全てにおいて悪意があったからな！
勾玉野郎は突然、自分の首に巻いてある勾玉を通した紐を解いた。
お前の本体()外していいの！！？
勾玉野郎のアイデンティティーじゃん！！
それがないと、ただのクソガキじゃん！！
「ここに書いてる」
と、勾玉野郎に勾玉を渡された。
勾玉には、名前がうっすらと彫ってあった。
「……これ、なんて読むの？」
「それは、“カイガク”と読む」
先生が教えてくれた。
へぇ、獪岳っていうんだ〜……
どっかで聞いた事あると思ったら、何回か勾玉野郎を先生が名前で呼んでたな。
「ねぇねぇ獪岳ねぇねぇ獪岳獪岳獪が＿＿＿」
「しつけぇ！！！」
当り前だ。
わざとやってるからな。
「そんなに名前を連呼すんな！」
「返すよ。大切にしなよ。親がくれたんでしょ？」
「は？そんなの、解る訳ないだろ」
勾玉を返すと、勾玉野郎は紐に勾玉を通しながら顔を顰めた。
「そもそも、これが俺の名前なのかも知らねぇ」
でも、自分ではコレが名前だと認めているんでしょ？
じゃあコレがお前の名前だよ！！
と、少し暴論染みた思考になった。
勾玉野郎が紐を首に結んだので、本体が元の位置に戻った。
今までは名前が無くても生きていけたからなぁ。
これからは、名前がないと不便だけど。
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作者名：そうや | 作成日時：2020年6月7日 21時
