【文スト】選んで生まれた訳じゃない [第四章]

安直な選択 ページ49

【目線なし】


谷崎「そう言えばAさんの世話役の人って本当に怪しい人じゃ無いんですよね…？」


終業時間間際に谷崎がそんな事を言い出した。


敦「確か…特約に“組合の使徒及び組合の使徒と疑われる者の面会を禁ずる”って書いてありましたよね。」


国木田「あの人は此の間の抗争の時に怪我をして俺が助けた一般人だ。そこは保証しよう。」


谷崎等はどうやら国木田が社長に説教されたのを見て、不祥事を起こさない様にと冷や々している様だ。


谷崎「あの“特約”って如何にも最重要事項を匂わせる感じですよね。」


敦「其れを守れなかったら僕達って……。」



二人は縁起でも無い事を言って震え上がっていた。



国木田「そもそもあの人が組合の使徒の訳無いだろう。」


谷崎「其の保証は無いじゃあないですか。」


国木田「組合の使徒が日本人な訳あるか。」


敦「た、確かに…組合は欧州の組織ですもんね……。」


国木田「大体、疑わしい様な奴を俺は雇わないさ。」



────♪♪


終業時間を報せる放送が事務所に流れた。


国木田が荷物を纏めると敦と谷崎も後を追う様に荷物を纏め同じ家路に着いた。



谷崎は用心深く、まだ其の世話役の事を疑っており家路の途中、月が輝る中ずっと其の話題を国木田の後ろで敦と話している。

国木田は雇った身として其れが自分を貶されている様に感じ、遂に声を荒らげた。


国木田「いい加減にしろ、お前等。根も葉もない疑いを人に掛けるのは良くない。」


然し今回は谷崎は折れなかった。

谷崎も負けじと声を荒らげた。


谷崎「根拠が無いって言いたいのなら其の人の身分証明書とかは確認したンですか！僕は此の失態で国木田さんみたいに怒られたくないんです！」


国木田「確認した。あの人は立派な一般人だ。」


敦「でも分かりませんよ。もしかしたら其の人、身分証を偽造しているかも…。」


今度は敦が応戦して来た。

そんなにも俺が信用出来ないか。

国木田は顔を顰めた。




国木田「今のご時世、デジタル化が進んで身分証の偽造なんて戸籍を作り替える程にセキリュティが高くて出来ない。」


敦「……で、でも其の安心に付け込まれていたとしたら……。」


国木田「もし本当に身分証を偽造したと言うのなら其れこそ俗に言う“完全犯罪”だろうな。」

国木田はそう言って嘲笑し、一蹴りした。





そんな彼等の後ろを火の玉の様に揺らぐ“其れ”が通った事は彼等は微塵も知らない。

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