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強い口調。それは私の知っている作間くんとは違った。強引さもあった。
「待ってください、まだ開いてます」
『…でも、もう閉店でしょう』
「まだあと1分あります。…だから」
白ユリの缶を店の入り口にそっと置いて、作間くんは私をまた見た。
「…だから、行かないで」
.
本当に閉店まで1分あったかなんて分からない。
あるいはもう20時を過ぎているかもしれない。
今の作間くんは、このひとは強い。
強い目をしている。
このひと、こんな目をしていただろうか。
初めて認識する綺麗な強い目に、私は何も言えなくて。
その目に連れられるように私はおずおずとお店の中に入った。
入り口近くに置かれたちりとりとほうき。
ちりとりには、花の葉や茎のごみが集められていて、床は綺麗に掃き清められていた。やっぱり閉店作業をしていたんだ。
白いちいさなお店の中は、たくさんの花が、緑たちが、ぎゅっとしていた。
狭そうにぎゅっとしていた。
けれどやっぱり綺麗。狭そうなところが逆に仲が良さそうに見える。ボリュームがあって華やかで、可愛い。
こんな時でも花に癒される。
花はいつだって優しい。
「ちょっとだけ待ってて下さい」
私を中まで促した後そう言った作間くんは、店先にまだ少し出ているグリーンを取りに急いで出て行った。
.
行かないで。
それはお花屋さんという領分を超えた言葉だと思う。
どうしてそんな事を言ったんだろう。
でも。
そのくらいの言葉で引き止められなければ、今私はここにいない、そうも思う。
何もかも上手くいかない私の捨てばちなこころに、作間くんの行かないで、は響いた。
行かないで、に半分連れられるように、半分甘えてこの店に入った。
もしかしたらこれは作間くんの優しさなのかもしれない。
そのくらい私は様子がおかしかったのかもしれない。私のほうがお客の領分を越えた状態だったのかもしれない。
行かないで。
その言葉がまだ耳に残る。
そして思う。
…どうして。
どうして彼は、
私がこれまでありがとう、さよならって言った時、行かないでって言わなかったの。
どうして言ってくれなかったの。
どうしてそのまま見送ったの。何も言わずに。
どうして。
「…お待たせしまし…?」
分かってる。
どうしてなんて、もう愚問でしかない。
こころの奥から何かが込み上げてきた。
からだが震える。
からからだったはずの私の気持ち。
『…っ』
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冷麦(プロフ) - bさん» コメントくださってありがとうございます!大好きと言ってくださって嬉しいです。しかもきらきらの形容詞をたくさん使って優しい言葉をくださって…恐縮しきり、です…!本当にありがとうございます! (2019年8月31日 22時) (レス) id: 5b6161b271 (このIDを非表示/違反報告)
b(プロフ) - この雰囲気好きだな、と思って読み始めたら、まさかの大好きな冷麦さんの小説と知ってびっくりです。どのお話も美しくて爽やかで清潔な感じの、冷麦さんの書く文章が好きです!楽しみにしています! (2019年8月31日 12時) (レス) id: 3cd053490c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冷麦 | 作成日時:2019年8月31日 9時