六匹目 ページ6
「はぁ、はぁ」
自分自身の荒い息遣いで我に返る。
明るい。壊れた天井から覗く燦燦とした太陽がAを焼き付ける。辺りを見渡せば、全壊した家の瓦礫が散らばっていた。全壊した理由は紛れもなく怪物との戦闘だろう。
Aは視線を下げ、床で力なく横たわる怪物を見る。死んでいる。心臓を貫かれ、もう動く気配も何も無い。
倒した。
それを理解した途端、糸が切れたように押し寄せる安心感と疲労でAは膝をついた。
「い゛っっ……たぁ……」
背骨を杭に打たれたような絶え間ない激痛がAの体を蝕んだ。おびただしい量の血液が身体中から噴射して地面に染みを作る。視界は霞み、体の平衡感覚がない。あともう少しで自分の体が死ぬことはわかった。
これほどボロボロになるまで、命をかけて戦ったのか。自身の信念強さにAは思わず笑みを零した。
しかし不明瞭な点は山ほどある。怪物とは何なのだろうか。おとぎ話にしか出てこないと思ってた空想上の人物が実際に現れ、Aはその姿を焼き付けた。知らなかっただけなのか？
……そういえば。ここでふと、陽の事を思い出した。陽はどうしたんだろうか。帰った来た時陽の死体は無かったし、丁度家に居なかったのか＿＿
「お兄ちゃん」
その時、後方から静謐な声がAの耳に入った。思考の全てが彼方へと吹っ飛ぶ。
Aは震える膝を押さえつけ、立ち上がる。そして声のする方へと振り返った。視線の先には長い黒髪を一つに結わえた少女が此方を見ていた。
「詩乃！！！」
Aは叫ぶ。体はとうに限界を超えていた。もう指ひとつ動かせない。だが、Aは詩乃へ駆け出した。
今すぐ抱き締めたい。自分が命をかけて守ったと実感したい。
その一心でAは駆ける。詩乃も駆け寄ってくる。Aは手を広げた。
だが、相反して詩乃はAを横を突っ切った。呆気に取られながらAは詩乃を目で追い、振り返る。
耳へ響く号哭。
広がる光景を前に、Aは震えていた。冷や汗が止まらない。
「……陽？」
そこに怪物の姿はなかった。
だが、怪物そっくりの二つ角を揺らす陽が泣き叫ぶ詩乃の腕に抱かれていた。
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作者名：あもす | 作成日時：2022年12月26日 2時
