三匹目 ページ3
幸せだな。
地面を踏みしめながら、Aは思う。優しい両親に、頼れる兄と可愛い妹。こんな家族に囲まれながら過ごす何気ない日々が永遠に続いてほしい。 Aは、さっき家族で遊んだことを思い出して堪らず口角を緩めた。楽しかったなあ。
「ふへへへ……」
気持ち悪いと言わざる笑みが落ちないまま、Aは街の一角にある建物に足を踏み入れた。建物の看板にはデカデカとお洒落な書体で『PET coo』と書かれている。Aはその下にある自動ドアを潜り、店に入った。
「キター！！！Aくん待ってたよ！」
入った途端、室内から歓喜に満ち溢れた甲高い声があった。
ドドドド、と迫り来る効果音と共に、吹き飛ばしそうな程の勢いでAに抱き着いてきた男性は、この店のオーナーの佐伯光さん。
「えへへへ」
佐伯さんは大仰な身振りを交えて歓迎してくれている。通常運転だな。
「じゃあよろしくおねがいします」
「よろしく！」
それから三十分はあっという間だった。Aは帰り際、店の裏である犬とじゃれていた。
艶やかな白と黒の毛並みをしたシベリアンハスキー。名前はシマ。毛並みがシマウマっぽいかららしい。Aが手伝いに来た当初からずっといる。おかげでペットショップのガラスケースに入らなくなる程成長し、今は店の裏で飼われている。
ヘッヘッヘッと荒い息を吐き出しながらシマはAの足に顔を擦り付ける。Aはしゃがみ、シマと視線を交わした。千切れそうなほど尻尾を振り回し、シマはAに飛び付く。長い舌を覗かせてAの口周りを舐めた。愛情故の行動である。
「わー、べっちょべちょ」
Aは嬉しそうに顔を綻ばせる。Aは顔中の涎を服の裾で雑に拭い、シマを抱き締めた。ふかふかだ。シマも答えるように尻尾を振る。
「ほんとに仲良いね」
奥で様子を見ていた佐伯さんが声をかけた。
「Aくんが引き取っても良かったんだよ？」
「うーん。俺も引き取りたいですけど家族があんまいい顔しなくて」
「そっかそっか」
Aは最後にシマの頭を思いっきり撫でて立ち上がる。佐伯さんに頭を下げ、Aが裏口の扉へ足先を変えようとした瞬間、弾かれたようにシマが吠えた。Aは驚いて振り返る。佐伯さんも目を見開いていた。滅多に吠えないシマが吠えた。
「シマどした？俺また来るよ？」
Aは宥めるように優しい声で問い掛ける。シマは身を奮い立たせ、Aをじっ、と見ていた。
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作者名：あもす | 作成日時：2022年12月26日 2時
