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15話 子どものような ページ16

───保健室に逃げ込み、約三十分が経過した。運が良いのか悪いのか、一向に誰かに見つかる気配はない。赤司は読んでいた小説を閉じ、小さく息を付いた。そのまま何となく、Aの方へ視線を移らせる。

Aは、睡魔に負けベッドの上で熟睡していた。昨日から緊張の為あまり寝られず、人前に立ち余計に倍以上の疲労が上乗せされ、糸が切れたかの如く静かになっていた。

赤司はそっと立ち上がり、Aの側まで行く。完全無防備な格好で寝ているAの寝顔は、普通に可愛いらしかった。先程まであんなに他人に怯えていた者とは、全く別人のようだ。

「……」

ここにいるのが自分じゃなくて、他の奴等だとしたら。そんなことを思った時点で、自分は何を考えているんだと首を振った。何故そんな考えが浮かんだのか自分でもよくわからない。ただ、何となくAのことを少しだけ気にかけているからであろう。

そっとAの頬に手を伸ばす。殆ど無意識だった。

「ん……凌兄」

「!」

反射的に手を引っ込めた。しかし、Aが赤司の手を軽く握っていた。恐らく兄の凌介と勘違いしているのだろう。赤司より少し小さいその手は、ひ弱な力でありながら、掴んだ手を離さないと言うように握り締めていた。

「……ふ」

何となく、寝ている姿を見ると世話の掛かる子供のように見えてきた。

……これから、毎日彼女と会うことになるのか。

少し好奇心が疼く反面、明日以降のことを考えると、Aがクラスに上手く馴染めるか心配になってきた。赤司が心配したところで、A自身が変わらないと意味がないけれど。



遠くでチャイムの鳴る音がした。気付けば一時間近くここにいたことになる。二時限目は移動教室だったのを思い出し、おもむろに立ち上がった。

Aを起こそうか迷ったが、気持ち良さそうな寝顔を見ていたら、このままそっとしておこうと思った。

「……先生には、俺から説明しておくか」

柄にもなくそんなことを思った。そのまま、保健室を出て行こうとする。

「……ん、待って、あーちゃん」

彼の服の袖を、Aが又も寝ぼけて引っ張った。思わず体勢が崩れ、少しよろける。彼女の寝顔が、アップで映し出された。

「……」

何故だろう。不覚にも、一瞬キュンとしてしまった自分がいた。

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翡翠(プロフ) - モトコさん» ありがとうございます。がんばって更新します! (2018年11月3日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
モトコ(プロフ) - 続きが気になります。更新頑張ってください! (2018年11月3日 23時) (レス) id: e294c9830f (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - ゆっくりノワールクローンNo.1さん» ありがとうございます!これからももっと面白くしていきたいと思います!頑張りますね! (2018年8月14日 23時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくりノワールクローンNo.1(プロフ) - ものっそい好みの作品です!!夢主ちゃん世間知らずで可愛いし間接キス知らないとかもう悶えちゃいます!!これからも更新頑張ってください!! (2018年8月14日 20時) (レス) id: a2e5a81f28 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 彩香さん» ありがとうございます(*≧∀≦*)!!がんばりますね! (2018年8月1日 9時) (レス) id: c98d4fab9f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:翡翠 | 作成日時:2018年7月12日 19時

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