【伍頁】子供が好きな優しい人魚 ページ5
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夢主視点
陽「ッ……!」
ビク、と。
目の前の陽太が、確かに怯えたように肩を揺らした。身体が強ばり、縮こまる。眩しい程に綺麗な黒曜石みたいな瞳には、確かに"怯え"の感情が色濃く浮かんでいた。
嗚呼。
私は今、どんな顔をしているのだろうか。
瞳孔は鋭く、牙は歯茎ごと剥き出しに。顔中にビキビキと青筋が浮かび上がり、口は耳まで裂けた。目付きは鋭く、恐ろしい。到底子供に見せられる面では無かった。
……この顔だけは、見せたく無かったんだけどな。
外敵を追い払う用の恐ろしい顔を、まさか陽太に向けるなんて思っても見なかった。ましてや、怯えさせたくなんて無かった。
嗚呼でも、やっぱり。
…………怯えられるって、悲しいんだな。
私は、勘違いをしていた。いつか、他の人間とも仲良くなれるかもしれないと。陽太のおかげで、陽太のせいで。私は、ちょっぴり人間を好きなってしまったのだ。あの暖かな笑顔が大好きだ。
もっと知りたい、もっと話したい。
人間と───楽しく、過ごしたい。
(ハッ)
(……とんだ思い違いだ)
分かっては、いたんだ。
やっぱり、妖怪は人間に受け入れられない。犯罪者が人間と相容れないように、仲良くなるなんて到底無理な話だったんだ。私は、いつの間にか勘違いをしていたのだ。愚かな、愚かな勘違いを。
だから、だからこそ。
────私は陽太を、逃がさなければ。
あの男がどちら狙いかは、分からない。どちら狙いだとしても、陽太をこの場から逃がす事くらいは出来る。というか、やらなければ。見届けられない事が、酷く惜しいけど。
鼻を迫り上がるツンとした感覚から目を逸らし、私は徐に地面に指を突き立てた。
ご え ん ね
ごめんね、と。
拙い文字で、そう書いた。子供の頃難破船で見つけた、人間の本。古い古い記憶を掘り起こして、私は離別の言葉を書いた。そして最後に、そっと頭を撫でた。
手の甲を下にして、爪で傷付けないように。
どうか、このまま無事に帰ってくれるように。
『ルゥア』
優しい声で、泣いた。
意味を理解してくれたのかは、分からないけど。怯えに染まった顔が、くしゃりと歪んだ。…これが更なる怯えじゃなくて別れの悲しみだと思いたい私は、我儘なのかな。
陽「大丈夫」
震える声で、陽太が言った。
陽「人魚さんが居なくても、俺頑張れるから」
陽「忘れないから」
陽「また、会いに来るから」
泣き出しそうな顔を、これ以上見たくなくて。
再度、背中を押した。
煉「……お前、は」
さぁて。
次で、大詰めだ。
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賽ノ目 アカリ(プロフ) - 楓さん» ありがとうございます!(o*。_。)o (2022年6月12日 20時) (レス) id: d0b76ddb34 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 頑張って下さいね!応援しますね! (2022年6月12日 20時) (レス) id: 12ed8e5001 (このIDを非表示/違反報告)
賽ノ目 アカリ(プロフ) - 楓さん» ごめんなさい、すぐ外しました!今後このような事が無いよう努めさせて頂きますm(_ _)m (2022年6月12日 20時) (レス) id: d0b76ddb34 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - オリジナル作品を消してくださいね!ルールですから。 (2022年6月12日 20時) (レス) @page5 id: 12ed8e5001 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:賽ノ目 アカリ | 作成日時:2022年6月12日 19時