【鬼滅の刃】煉獄さんの姉に転生したら痣に殺.される運命だけど、それでもまた会いたいと願います【陸】

【佰陸拾玖】侵食。 ページ3

side無し

運び込まれた当時の杏華の状態は、それはもう酷い物だったという。


口元や衣服、あらゆるところが血まみれ。
顔は青白く、まるで死人のよう。
そして……顔の半分を陣取っていた赤黒い痣が、遂にはもう半分まで侵食して来ていたのである。

検査の為服を剥いだしのぶは、その容貌に小さく悲鳴をあげた。

両腕が、最早庇いきれない程に赤黒く染まっている。
首にもグルリと一周しており、酷いところは腹にまで侵食して来ていた。

もう……時間が無い。

それは、誰の目から見ても明らかだった。

【閑話休題】

さて、ここは蝶屋敷の一室。

諸々の報告や相談の為、真っ先に弟の杏寿郎が呼ばれた。

煉｢……姉上は？｣

し｢……見た目の割に、容態は意外な程安定しています。
けれど、あの痣の進行具合を見るに……これ以上、良くなる事は無いでしょう｣

煉｢…そうか｣

両者共、酷く沈痛な声であった。
杏寿郎に至っては、両手を膝元で組んで静かに項垂れている。
蝶屋敷の面々全員が、杏華の急変ぶりに気を落としている。

元々、よく菓子を持ってきてくれる優しい人という事で大分良い印象だったのだ。

だが今はどうだ。
倒れてからもう一週間経つのに、一向に目覚める気配は無い。
その割に目立った症状は何も無いが、それが逆に不安感を煽る一因となっていた。

杏寿郎は……まだ覚えている。

目の前の姉の顔に、一瞬にして赤黒い痣が広がったのを。

つまるところトラウマになっていた。
当たり前だろう、目の前で勢いよく吐血されたらそりゃあトラウマにもなる。

煉｢…これからどうする？｣

し｢お館様とも相談を進めて行きますが…あの様子じゃ、もう柱稽古は無理でしょう。
そもそも、目覚めるかどうかすらも怪しい｣

それはつまり、このまま文字通り眠るように死ぬという事も十分有り得るという事で。
男らしい太い指が、日に焼けた手のひらに食い込んだ。

ポタ、と血が垂れる。

し｢……杏華さんって割と、地獄耳なんですよね｣

疲れ切っているのか、何処か遠くを見るような笑顔のしのぶに杏寿郎は不思議そうに首を傾げた。

煉｢……どういう事だ？｣

し｢今こうして私達が話しているのも、割と、聞いてそうだなぁ……って｣



しのぶは疲れ切っていた。
本当の意味で疲れ切っていた。
だからこんな、普段は言わないような荒唐無稽な事さえ口に出してしまう。

だが……言霊とは時に恐ろしい物である。




それが例え、最悪の出来事を齎したとて。




パリィンッ




静寂に包まれた蝶屋敷には不釣り合いな、何かが割れるような音が響き渡った。

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