【WT】出水彼女いるってよ。 (ページ9)

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ep.01.「あのコとあの人」ページ9

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ーーーー溜飲が下がらない。

『あたしさ、いずみに言ってないことあんだよね』

それはいつだったか。ちかりとした視線に目を眇め、眉を顰めた。逆光のせいでまともにその人がいた方向が見えなかったのを覚えている。

「俺、あんたの10分の1も知らないと思うけど」

怒りではない。ただただ真実だった。だからと言って別に無理に知ろうとも思わなかった。それは俺にとってもその人にとっても無意味な行為に過ぎなかったからだ。
だから、その時その人からそんな言葉が出てくるのが不思議でしかなかった。

『私も知らない』
「別に知るほどなにかあるわけじゃないしな」
『お互い様だったか』

空き教室で行為に及んだのは間違いだったのかもしれない。なんて漠然と思ったわけではなかった。なんとなくこの雰囲気が居心地が悪くて居た堪れなくなる。そんなことを思っていたのが顔に出ていたのか苦虫を噛み潰したような顔をしている、と笑われた。

『ねえ、いずみ』

なに、と言おうとしたのだ。すると唇を唇で塞がれた。それは、合図だ。それが合図で俺はその人の腰を抱くと一層口付けを深くした。閉じていた目を少しだけ開けると長い睫毛が震えていてそれを見ると酷く安心した。

ーーーーーいずみ、

ああ、ほんとうに憎らしい。

と、次の瞬間、頭にばしんっと音を立てて衝撃が走り夢現だった意識は一気に現実に引き戻された。勢いよく顔を上げ、なにが起きたんだと衝撃が走った後頭部をさすりながら周りを見まわした。

「げっ」

いや、見回すまでもなかった。なんせ目の前にいたのだから。俺の頭を叩いたであろうノートの束を持った般若が。

「……なにかな、牧田さん」
「そのなにが分かってていってるなら、速やかに出してほしいんだけど」

般若こと牧田りこさん。同じクラスで学級委員長をやっている"ど"が付くほどの真面目人間で頭がお堅い。そして何のご縁なのかこの牧田さんもボーダーに属している。

因みに今牧田さんがご所望しているであろう数学のノートなら提出することはできない。何故ならば、ボーダーの任務+授業の居眠り+時たまのサボりによりまっさらさらであるからだ。

「あと出水だけなんだけど」
「え、それは聞き捨てなんねえ。あの槍バカはどうしたよ。まさかあいつも出してんの？」
「……あいつは諦めたわ」

なんでも牧田さんと槍バカである米屋は中学からの付き合いらしく諦めるという言葉を米田によって牧田さんは初めて自分の辞書に刻むことになったらしい。