【WT】出水彼女いるってよ。 (ページ19)

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視界いっぱいに広がる未完成のパズルに視界の隅にこれでもかと積まれているパズルピースを一つまた一つと手に取って目の前に広がるパズルに俺自身がはめ込んでいく。ぱちん、ぱちん、と確かにはめ込まれ結合していくそれを聴覚と視覚で確かに感じながらそれはそれは心地の良いBGMだと勘違いしはめ込む手を早めた。

視界いっぱいに完成していくパズルに気分のいいものを感じ、秦野八生という1人の人間を壊していく。はめ込む行為は再構築なのだ。秦野八生は壊すけれど作り直すだけ。ただそれだけ。その分補い切れない部分には目を瞑るから、まず根底にある秦野八生という人格を壊しきる。

そうしたら完成も同然。そのあとは追々作り替えていけば仮である"鈴木A"は完璧に大成する。そうして、最後の一つを手に取った。あとひとつ、あとひとつで完成を成すパズルに胸はどくん、どくんと脈を拍つかのように踏み締めるように重たい音でリズムを一定に刻んでいる。

「秦野さんかわいいのに」

口にしたそれは出まかせもいいところだった。けれどこれが最後の1ピース。返しによってこれははめ込まれる。ピースを握り込む手は少し汗ばんでいる。緊張、はやる胸を上から押さえつけるかのようにさらに握る手に力を込めた。不幸なことに秦野さんの妙な再現度の高さにより期待は充分過ぎるほどに高まっていた。

ーーー知ってる。

それだけ。ただ無駄なくそれだけを言ってくれさえすればもう大成していると言っても過言ではない。これだけでも申し分ないのだが自負で溢れた笑みを浮かべてくれたりなんかしたら俺はもう秦野さんにスタンディングオベーションを全身全霊で送ってしまうだろう。

けれど、現実はそう甘くない。

「え、え、今！私のこと可愛いって言った、？！」

あ。違う。

急激にこれじゃない感が迫り上がって俺の頭の中いっぱいを駆け巡ってミサイルを発射するかの様に俺の頭上で盛大に弾け飛んだ。瞬間、俺は我に返り目の前いっぱいに広げられていたパズルがばらばらと崩れて床に音を立て、何枚かは床に弾かれ散らばり、またあるものは俺の顔を殴るかのようにぱちんと当たって消えた。

最悪だ。

「え？うん……いや、かわいいから振ったやつ勿体ねえなと思ってさ」

それしか言い様がなかった。それ以上、なんと言えばいいか考えられるほど思考が回らなかった。最もなことを言って、運動場に自分で描いた小さい落書きを踏みつけながら足で擦って消すように俺は仮で作ろうとした"鈴木A"を俺の中で木っ端微塵にして隠蔽した。