【WT】出水彼女いるってよ。 (ページ18)

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ーーーねえ。いずみ

『また振られちった』

へらり。そんでさあ、その振られた理由がさあ、とへらへらの延長線上で緩く笑みながら振られた理由を雄弁に語るその人に俺は感服しそうになった。感服のあまり語られるそれを全くもって聞いていなかった俺は、傑作でしょって腹を抱えて1人で笑うその人に「楽しそうでよかったじゃん」と適当に返した。

『で、次の彼氏これ』
「もういんのかよ」

嬉々として見せてくれる写メはブレており、加えてガラケーのため解像度は最悪だったため新しい彼氏とやらの顔はよく見えなかった。「下手くそ」と笑えば『苦手なんだよ』と口を尖らせた。むむむ、と心外だと拗ねたようにいうとその写真は次の瞬間無慈悲にも消されてしまった。

《削除しました》と出る画面に少し口元が引き攣った。拗ねるようなかわいい顔をしていたかと思えばその手はなんの迷いもなくもう用済みだと言わんばかりに画面に収まっている男を消すその人に背筋が嫌な汗をかいた。引き攣った口元を「もういいの」と動かした。するとその人の口はにんまりと孤を描いて言ったのだ。

『いずみに見せたかっただけだからもういらない』

もういい、と繰り返す口元だけを俺の視線は追っていた。追っていく一音一音を視覚と聴覚が俺の中に念入りに刻み込み頭のてっぺんから爪の先まで余すとこなく痺れさせる。引き攣っていた口元は今度は別の意味で引き攣ってしまう。「見えなかったけど」と誤魔化すように返せば『余計いらなかったね』と要らないものの再確認をしたのだった。

ああ、救いようがない。

「私がまた振られたってはなし」

ーーーまた振られちった。

哀しきかな。思いっ切り重なってしまった。その瞬間、どうしようもなくあの人に会いたくなった。会いたくなったところで都合よく会えるわけではないと分かっている俺の思考が働いた方向はなんとも気味の悪いものだった。

それは秦野さんをあの人に置き換えてひたすらあの人と被っているところを探し仮の再会の場を用意することだった。置き換え、被っているところを探すことで目の前の仮である"鈴木A"を完璧に近づけようとしたのだ。

幸か不幸か。置き換えるには充分なほどに秦野さんはあの人だった。振られたことを隠さない、泣かない、不満さえ言わないというトリプルコンボも見事にまんま被っていて文句なしの再現っぷりだった。

「8かいめー！」

その屈託ない笑顔は再現度を高めるだけで俺をひたすら虚しくさせた。