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「なあ、A」
時は経ち、移動教室のこと。
私より少し後ろを歩いていた裕子が私を呼び止め、ついでに足も止めた。
声が遠くならないように私も足を止め、振り返る。
『どしたの』
そう聞いても中々答えない裕子に、私は近くの教室の時計を見て授業時間までの時間を示唆した。
だが、裕子は心の準備というものがある、と急ぐ気配はなかった。
『裕子まだ』
「その、…うち、アンタに言っとらんことが
あんねん」
(ああ、そう言えばコイツは
友達には自分の抱えてるもの全部言わなきゃ気が済まないタイプだっけ)
『…いいよ。別に
言ってないっていうのは、言いたくないってことと
同意義の様なもんだし』
そう言うと裕子は眉を顰めた。
「言いたい時に言え、ぐらい言えんのか。あほ」
そんな余裕はない、と言おうとした。
けど、言ったところで裕子からしたら" どうして "となるだけで意味がない様なものだ。
『言って欲しかったの
私がそんなキャラじゃないって知ってんじゃん』
「……ええわ。
こんなこと話すためにこんな切り出し方した訳やない」
目は、静かにコチラだけを向いていた。
「うちな、」
裕子が息を吸い、言葉にしようとしたその時、
____キーンコーンカーンコーン
校内に予鈴が響く。
と、同時に裕子の肩も跳ねた。
「あ、あ!
授業遅刻や!急ぐで!」
『……そんなに驚くか』
裕子は御自慢の足で颯爽と行ってしまい、立ち尽くした私はその場に残された。
「席替えすんでー」
LHRになり、教室に入ってきた担任は開口一番にそう告げた。
言ったら言ったで後は全て学級委員に押し付けるのがうちの担任の売りである。
「じゃあ、くじ引いてー」
即席で作られた紙の切れ端で出来たくじを廊下側の人たちから順番に引いていく。
幸か不幸かいや、後者の方であろうが私は残念ながら最後でくじは自由に選べない。
『いやいや、うん。
残りものには福があるって言うし』
そう言い聞かせてみたはものの、
『福ねえじゃん!』
紙切れに書かれていたのは「一番」と言う数字。
教卓の真ん前だった。
だが、その心からの叫びに反応したやつが一人。
「え、A1番なん?!」
『不幸なことにね』
「なら!うちとそのくじ交換してや!」
裕子だった。
『おー、どこ?』
黒板に書かれた席順を確認すると、裕子が引いた席は一番後ろの廊下側。
悪くはなく、交換しようと気持ちは傾いた。
が。
「しかも角名の隣!」
…
『…え』
『あー…やっぱ駄目』
「な、なんで?」
『勉学に励もうかと』
…なに、逃げてんだ。私。
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グリム(プロフ) - ヤバイ、凄く引き込まれる!次の投稿待ってます! (1月30日 17時) (レス) @page13 id: 66f712e8a8 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 切ない……切なすぎる…。更新ずっと待ってます‼ (10月15日 20時) (レス) @page13 id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
百合(プロフ) - んごおああああああああ(叫び声)めためた切ない(´;ω;`)次の投稿永遠に待ってます! (6月18日 19時) (レス) @page13 id: 587110230b (このIDを非表示/違反報告)
めぃ(プロフ) - ほんとに最高です!主人公ちゃんへの感情移入凄すぎてしんどいです…(泣) (2022年7月24日 5時) (レス) id: 1ba6cd66fa (このIDを非表示/違反報告)
みるきーばなな(プロフ) - うはぁぁぁ、切ねぇぇぇ、、、ッッ!読みながら涙腺崩壊しそうになったぞおい、、(涙) (2022年7月15日 8時) (レス) @page13 id: bfe5e9257b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チェスター | 作成日時:2021年7月5日 12時