美人な客 2 ページ2
俺の恋人は、サラサラとした黒髪でメガネの似合う、優等生みたいな子だった。
彼と出会ったのは本当に偶然で、落とした学生証を拾ってあげたら、そのままお礼に、と言って週末会うことになった。
最初は断ったけれど、彼があまりに熱心なものだから無下にするのも無粋な気がして、結局折れた、というのが本当のところだ。
彼とはその後、何度か会うようになった。というのも、俺が出版社で働いていることを話の流れで教えると、そいつもそういった業界を目指しているらしく、コネは作っておかないと! と言うことだった。
そこまで下心を丸出しにするあいつがなんだか面白くて、つい放っておけなくなったのだ。
それから会う度に、この間の記事がどうだのと話す彼が愛おしくなって、気づけば俺達は付き合っていた。
相手が未成年ということもあって体を繋げるということはしなかったけれど、それでも幸せだった。
そんな中、彼が事故にあって脳に記憶障害が遺った。ものを覚えられなくなったのだ。俺の事も何度も忘れて、その度に自己紹介をした。
平気なフリして笑ったけど、次にあった時また忘れられていたら……と思うと不安でたまらなかった。それでも会いに行ったのは覚えていてくれたら、という期待が大きかったからだろう。
俺のことを忘れた日に、必ず彼は言った。
「あなたと居ると、不思議と安心するんです。」
俺は拒否されるのが怖くて、その度にそりゃあ恋人だったからな、なんて軽口を飲み込んだ。
けれど昨日は違った。彼は酷く思い悩んだ顔をして俺に言ったのだ、生きているのが辛い、と。理由は、優しい彼らしかった。
「僕が忘れることで、人を傷つけているのが怖い。あなたの事もきっと忘れているんでしょう? 」
記憶障害が治るかどうかわからないのが怖い、忘れていることさえも思い出せない明日が怖い。
そう言って泣きじゃくる姿を見ていたら、いつの間にかそいつの首を絞めていた。
あいつは意識が無くなるその瞬間、小さく口を動かしたのを鮮明に覚えている。
『ありがとう、ごめんなさい』
声になれなかったそれを最期にあいつはこの世を去っていった。
◆◆
そこまで話して、男は煙草を取り出して火をつけ、ゆっくりと吸った。
そしてこちらを見て、これからアイツの所に行くから、そう言い残すとお金を払ってさっさと出ていった。
去り際に言った「彼」が誰のことかは結局聞けずじまいだが、2人が幸せであればいいと思った。
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作者名:ナイフ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/mesemoaLOVE/
作成日時:2019年8月22日 23時