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Keith side
不思議な男だった
彼は、本当に何も知らなかった
この壁の歴史や成り立ち、地域の名や貨幣の価値に至るまで
本当に何も知らなかった
酒の影響かどうかは疑わしいが、記憶に何らかの異常があったことに間違いはなかった
そして、しきりに人々の暮らしぶりを気にしていた
ありのままの現状を伝えた
グ「…そうか、貧富の差こそあれどこの壁の中は平和なんだな…
少なくとも、巨人に怯えて生きているわけではない…
…良かった」
キ「…”良かった”…か
あんたもそう、思うのか…」
グ「え…？」
キ「この狭い壁の中で飯を酒にありつけばそれで満足らしいな、あんた達は…
世界がどれだけ広いかなんて考えた事がないだろ？
だから幸せでいられる
私は違うがな」
グ「貴方が壁の外に出ていく理由はそれか？それが調査兵団？」
キ「…それが調査兵団だ
王政の指し示す壁外不干渉の方針には疑問を唱える民衆がいる
その不満を解消するために作られた組織と言えよう
…もっとも、現在となっては人類が忘れていた巨人の恐怖を思い起こせただけだった
さながら私達は…王の正当性を示すための見せしめ…
…ふっ、どうだ？馬鹿みたいか？」
俺がそういうと、グリシャはきっぱり否定した
”貴方達は、この壁の誰よりも賢く勇気がある”
”調査兵団の存在は、人間の想像力や魂が自由である事を示す証拠であり、人類の誇りそのものだ”
と
キ「誇り…？我々が…？」
グ「あぁ」
カ「ちょっとキースさん？また調査兵団の勧誘かい？
お客さんも、人の口車に乗せられてちゃ駄目だよ」
キ「違うぞ、カルラ、私は…」
グ「誤解ですよ
そもそも私なんぞに務まるものでは無いでしょう
調査兵団はもっと特別な…選ばれし者でないと…」
”特別な存在”
”選ばれし者”
そんな事を言われたのは初めてだった
確かに、私は人とは違った
壁の中に自分の居場所を感じた事などなかった
そう…
壁の中は――
私には狭すぎたのだ
.
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作者名：ふらんそわ。 | 作成日時：2023年5月10日 23時
